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青森県産羊毛の会 aomori wool × 廃棄羊毛

食用羊の毛を生かして、
青森県産ウールの地産地消を。

要約すると…

  1. ずっと地元の羊でウール作品がつくりたいと思っていた。そんななか、未年のお正月新聞で、青森県内に羊農家がいることを知る。
  2. 牧場を訪れたことをきっかけに、県内4施設で年間270kgの羊毛が廃棄されている事実にたどりつく。触ってみるとどれも毛質は素晴らしいが、食用なので汚れが目立つものだった。
  3. 飼い主に羊毛の魅力を体感してもらうことで価値を伝え、以前よりきれいな毛がもらえるように。バラエティ豊かな商品を展開し、青森県産羊毛の普及と地産地消に取り組んでいる。

青森の羊農家との出会い

「いつか地元・青森の羊毛で作品をつくりたい」と思いながら、2014年からともにホームスパンを制作していた中川麻子さんと大村知子さん。

2015年のお正月、干支・未の特集をしていた新聞に目が止まります。それは、青森の階上町(はしかみちょう)で最後のひとりとなった羊農家・堰合勝美さんの記事でした。以前から青森育ちの羊を探していた2人は居ても立っても居られず、青森市から車で2時間半かけて堰合さんに会いにいきます。

※2015年に後継者が見つかります。

ニュージーランド原産のコリデール。強健な体質と気候風土によく適応するので飼いやすい。

良質だが、汚れが目立つものだった。

牧場に行ってみると、食肉用の羊毛はすべて捨てられてるという事実を目の当たりにします。さらに廃棄前提で扱っているため、毛のなかに藁屑が入り込んでいたり、糞尿で汚れていたり、毛がガチガチに固まっていたり、羊毛としてそのまま使うのは難しい状態でした。

「汚れていましたが、少し触れただけで優れた毛質だということわかりました。見た目にも、みっちり生えていましたし。まさに、“健康な羊に健康な毛が宿る”を体現したような。もったいないと思うのと同時に、以前から考えていた青森県の羊毛で作品づくりをするという夢が叶えられるのではないかと心踊るような気分でした」

また、2人が身近な羊の存在を知らなかった理由には、国内に流通する国産羊肉はたったの0.6%で、そのほとんどが都内の有名レストランで使われていることからなんだそう。

毛刈り。バリカン片手に豊かに生えそろった羊の毛を刈っていく。もう一方の手で頭を、両足で胴体を押さえ体力が必要なため、オーストラリアでは「世界一きつい仕事」といわれている。

年間270kgの羊毛が廃棄されていた。

羊農家と知り合えたことで、羊のいる施設が数珠つなぎのように分かっていきます。そのすべてで羊毛が廃棄されており、牧場(階上町に2軒)、北里大学獣医学部(十和田市)、おおわに自然村(大鰐町)の4ヶ所で、年間270kgもの羊毛が捨てられていました。

「毛刈りをしてすぐ裾の汚れをカットしないと、みるみるうちに全体にダメージが伝わってしまいます。なので、私たちは”分ければ資源、分けなければゴミ”を理解してもらえるように、飼い主の負担を軽くしつつ、羊毛の魅力を体感してもらう機会を頻繁につくりました。たとえば、毛刈りのお手伝いをしたり、大学の羊でつくったウール作品を学生にプレゼントしたり、学園祭で糸紡ぎのワークショップを開いたり…。そうやっていると、徐々に本音で話せる関係性を築け、私たちの想いが伝わりやすくなりました」

また、頻繁に牧場へ行くことで羊たちに愛情がわき、「さくらちゃんの毛、良かったです」など名前とともに感想を伝えることが増えていったといいます。さらに、元気な羊は巻きがしっかりしていることや、きれい好きな羊は他の羊より美しいフリースに仕上がること、お年寄りの羊だと少し白髪が混じっていることなど、羊の性格が羊毛に反映されているという発見があったそう。

紡ぎ車ワークショップの様子。

毛刈りから、作品づくり、ワークショップまで。

今では4つの施設すべてで羊毛の汚れが少なくなり、使える羊毛が増えているといいます。2016年に「青森県産羊毛の会 aomori wool」という団体名に変更。羊毛刈りのお手伝いから、糸紡ぎ、作品の展示・販売に至るまでメンバーの手で行うようになりました。

マンクス・ロフタンのフリース。ロフタンとは「小さな、愛らしい茶色い奴」というバイキングの言葉。

洗浄した羊毛を乾かしている様子。aomori woolでは、毛刈りのお手伝い・スカーティング(汚れた裾をカットすること)・ソーティング(使用目的にあわせた仕分け)・毛洗い・カーディング(櫛でとかして均整にすること)・糸紡ぎを手作業で行っている。場合によっては染色も。

一般の人にも青森県産羊毛の魅力を知ってもらうため、展示会や糸紡ぎワークショップを開催。作品も織物や編み物だけではなく、青森ヒバをつかったツリーオブジェや愛猫向けマタタビパウダー入りフェルトボールなど幅広いウール作品を制作しています。

「毛刈りのお手伝いからやっているので、一頭分の毛糸が完成するまでに150時間くらいかかりますね。ただ、トータルでやっているから、一頭一頭にキャラクターがあることもわかりましたし、青森産羊毛の魅力をさまざまな場所でしっかりと伝えられることにつながっています」

作品の展示・販売。小物は数百円〜、マフラー・ホームスパンは8,000〜15,000円、帽子は10,000円弱、ストール40,000円と高品質な羊毛作品を手に取りやすい価格から展開している。

 

日本三大美林のひとつである青森ヒバとのコラボ商品。青森ヒバを使うことで、羊毛以外から、青森県産羊毛を知ってもらうきっかけをつくっている。

青森県産羊毛の廃棄0を目指して。

協力施設の羊毛廃棄量は、現状aomori woolだけでは使い切れていないといいます。一方、羊毛は「衣」「食」だけでなく「住」もまかなえるという特徴も。「住」の活用は高い断熱性と調湿性を生かした断熱材で、モンゴルの遊牧民が使う移動式住居・ゲルの壁にも使われています。そのため様々なジャンルの方に青森県産羊毛を認知してもらい、今まで以上に地元消費が増える方法を6人まで増えたメンバーで日々考えています。

 

コラム:aomori woolが扱う青森県産羊毛の魅力とは?

羊毛はウェーブ状の縮れに繊維が絡み合うことで保温性をキープするという基本的な特徴がありますが、住むところや食べるもの、処理の仕方によっても毛質が変わります。

青森県は「やませ」の影響で、夏場は冷涼、冬は日照量が多く乾燥しているため、涼しく乾燥した気候を好む羊にとっては住みやすい環境。そのため、青森県産は他の羊毛よりも繊維にたっぷりの空気を含み保温性が抜群。

また、食用や研究用で飼われているものが多く、栄養管理が行き届いており健康そのもの。毛をひっぱっても千切れにくく、工業用とちがい適度に油分が残っているので、心地よい肌触りです。

※羊毛は種類や牧場によって毛質は変わりますが、aomori woolの協力施設すべてにこれらの毛質が共通している。

 

aomori woolで扱う羊毛

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