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ブラウンライス×琵琶湖のヨシ粉

焼き菓子を通じてお客様へ届けたい、環境保全の物語

ヨシのマフィンは毎春の定番メニュー

徹底した植物性素材へのこだわり

フード事業・ブラウンライスを展開するニールズヤードレメディーズは、植物の有効成分を最大に生かした製品づくりを目指す、英国発祥のアロマセラピーのブランド。日本でもすでに20年以上の歴史があります。肌に直接関与する化粧品も大事ですが、カラダだけでなく心も含めて全体的にケアすることで、はじめて人は美しく健康体でいることができる。そんなホリスティックという考えのもと、香りを通じて、さまざまな製品が生まれています。ひとに関与するものだからこそ、すべて安全でなくてはならない。動物性の素材を一切使わず、植物成分にこだわる、しかも基本的にはオーガニックであること。素材選びにも細心の注意が払われています。
当然のことながらブラウンライスにも、この企業姿勢と素材へのこだわりが貫かれています。化粧品だけではお客様をケアできるところは限られる。人の健康は食べるもので作られる。そんな思いから手がけるようになった食の分野。ブラウンライスを10年前から支えてきたマネージャーの阿部梓さんは、いいます。

「使う食材は植物性のものが基本です。もちろん、安全性の高さには気を配ります。つねに日本中から、自分たちのポリシーにあった食材を探していました。いろいろなつながりから、全国の素晴らしい素材や調味料をご紹介頂いていますが、そんな時に出合ったのが、ヨシの粉というはじめて見る食材だったのです」

東京・表参道にあるBROWN RICE CAFE

ゆったりくつろげるカフェ空間が人気

ヨシという植物の環境的な意義

ヨシという植物は、一般的にはアシと呼ばれている水草で、古くから全国で、すだれや屋根の材料として利用されてきました。刈り取っても一年間で約4〜5mにも育つ成長力によって、1本で毎年約1トンの水を浄化するともいわれています。放置し続けると立ち枯れなどの影響で、翌年のヨシの成長が悪くなり、水浄化機能も損なわれてしまうため、毎年キチンと計画的に刈り取り、ヨシ原として保全していく必要がありました。近江八幡市安土町にある西の湖でも、そんな取り組みがはじまっていました。西の湖は、ラムサール条約にも登録されている貴重な自然が残る湖。琵琶湖周辺に点在する内湖の中で最大の大きさを誇り、実に琵琶湖全体の6割以上にもなる100haにも及ぶ広大なヨシ原が残っています。需要が多い時代には、何軒ものヨシ農家が存在し収穫して生計を立てていましたが、いまはボランティアが水質保全のために刈り取るにとどまっています。

2014年秋には全面改装が予定されている

ヨシの葉の粉から生まれた春の定番メニュー。

ヨシ原の魅力やその意味に多くのひとが気づけば、西の湖の環境もきっとよくなるはず。ヨシ原を環境保全のシンボルにしよう。そういう思いを持つ地元の企業や商工会が中心になり、5年ほど前から勉強会がはじまりました。ヨシの葉を食材として売り出す試みもそんな中から生まれました。ヨシの葉の収穫は、一年のうちわずか2週間ほどしかできません。葉が大きく育ってしまうとヨシ独特のナチュラルな風味が損なわれるばかりでなく、繊維が堅くなり加工に適さなくなるからです。毎年5月の天気のいい日を選び、ヨシの葉の収穫が行われます。成長に悪影響が出ないよう、ヨシ1本につき2〜3枚のみをカット。水辺に生えているだけに収穫できるエリアも少なく、そういう意味でも貴重な食材といえます。ブラウンライスの阿部さんがヨシと出合ったのは、ちょうどその頃です。

ヨシはそもそも栽培ではなく自生しているもの。農薬等の心配がなかったことは、ブラウンライスにとっては格好の条件だったようです。そして何より使ってみておいしかったという事実。見た目にも美しい鮮やかな緑色も、工場長をはじめ、多くのスタッフの心をつかみました。野草独特の香りがあり、焼き菓子との相性が非常に良かったようです。お客さまにとっても珍しく、「ヨシって何ですか?」「はじめて見ました!」など、対話が生まれるきっかけにもなているとか。今では、「ヨシのマフィン」は春の定番メニューとして、その人気は定着しています。

水鳥が多く棲む西の湖の美しいヨシ原

ヨシ原はジャングル、成長すると4〜5mにもなる

ヨシ以外にも、生産者や産品を応援する場づくり。

ヨシに限らず、ブラウンライスに素材を提供している全国の生産者は、生産量が少ないために、流通に乗りづらいことも多いといいます。ただ、どこも例外なく丁寧なモノづくりをしているため、安全面では太鼓判の押せる素材ばかり。そこをしっかり応援していくためのシステムもしっかり考えられています。ウェブサイトや手作りのPOPを使って、製品情報と一緒に生産者の情報を紹介したり、生産者が消費者と直接顔を合わせ、素材の魅力や作り手のこだわりをお話していただける場として、年に一度「ホールフードマーケット」を開催。消費者に生産者や地域を紹介する機会をつくっていくことも、私たちの使命だと思っています。」と言います。

「食材としてヨシを使っているのは、東京ではたぶん今はうちだけですが、これをひとり占めするつもりはありません。抗酸化作用のある、こんなにも身体にいい食材があるんですよ。このヨシが生えている水辺の自然が美しいんですよ。そして、このヨシ粉を使うことで西の湖の環境保全にも役立つんですよ。そういう物語をみんなに知ってもらうことで、どんどん使うお店や企業が増えていくといいなと思っています。私たちの使う量では、地域の活性にはならない。でも、みんなで使えば、地域を支えることができるはずじゃないでしょうか」「ヨシのマフィン」は定番商品として、今年も、BROWN RICE CAFEのメニューを飾ります。

収穫したばかりの瑞々しいヨシの葉

ヨシ粉を商品化した(株)豊葦原会代表の安居昌広さん

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