地域資源を活かす、
企業のビジネス視点を提供するメディアです。

津軽鉄道株式会社×五所川原の地吹雪

吹雪体験が別の季節の
来訪を促す

一面の雪景色はそれだけで幻想的。

出発点は町おこし

青森県五所川原市に、全国に類をみないおもしろいツアーがあります。その名も「地吹雪ツアー」。北国の人間にとっては、顔をしかめたくなる「地吹雪」ですが、ツアーは大人気。旅行会社のツアーとしても紹介され、海外からも観光客がやっていきます。

地吹雪を体験してもらおう。それは、“冬の間は誰も呼べない”雪深いこの地の町おこしとして発案されたものでした。
地吹雪ツアーが開催されるのは奥津軽にあたる五所川原市金木地区(旧金木町)。太宰治と津軽三味線芸能を育んだ地として知られ、かつては林業が盛んな町でした。最高級の青森ひばの森林が豊富にあるので、かつては製材業が盛ん。「金になる木」から町の名前がついたほどで、全長320kmにわたって森林鉄道が張り巡らされていたといいます。

しかし現在、林業は衰退。春には「金木桜まつり」、夏は「五所川原立佞武多」などの観光がありますが、冬にはぱたっと観光客の足が止まってしまうことが長年の懸案事項でした。そこでまず立ち上がったのが、角田周さんでした。
1988年、学生時代からしばらく東京で過ごし地元にUターンした角田さんが、都会の人の雪への憧れを逆手にとろうと考えました。「最初はイメージダウンだからやめろっていろんな人に言われたよ」と角田さんは振り返ります。地吹雪、馬ぞり、津軽弁、ここでしか味わえない体験をパッケージ化した観光は、はじめ地元の人にはなかなか理解されませんでした。しかし、お客さんの反応は上々。角田さんもまわりの人もボランティアで、工夫しながら地吹雪+αの観光を続けてきました。

旅の始まりのレトロな切符が旅情を誘います。

ぽかぽかと暖かいストーブ列車。

復活したストーブ列車

今、地吹雪ツアーに参加する人のほとんどが利用するのが、津軽鉄道株式会社が運営するストーブ列車です。車内で石炭ストーブを焚き、その上でスルメを焼くというユニークな取組みは、地吹雪ツアーと並んで冬の五所川原の名物となっています。
ストーブ列車はもともと観光のための列車ではなく、1930年、津軽鉄道が開通した頃からのもの。通常の列車内で使う暖房設備が整えられなかったため、石炭ストーブを据えたのだそう。蒸気機関車から国鉄に譲り受けたディーゼル車に車両が代わっても、そのまま石炭ストーブを置くスタイルは踏襲されました。
「今は観光用の車両になっていますが、平成の始め頃までは、通勤通学に使われる朝夕の電車もストーブ列車だったんですよ。学生が、ストーブの上でアルミホイルに包まれたおにぎりを温める光景が見られたんです」と当時車掌をしていた、運輸課長の館山広一さんが懐かしみます。

石炭はコストがかかるため、ストーブ列車の存続の危機もありました。その危機を救った立役者が「地吹雪ツアー」だったといいます。1988年当時、地吹雪ツアーの会場になる金木をはじめ、ストーブ列車沿線には冬の観光客を見込める施設は何もありませんでした。ストーブ列車のお客さんも、ぽつぽつと乗車する鉄道ファンくらい。しかし地吹雪ツアーが始まると、たちまち団体客がストーブ列車に乗り込むようになりました。その人気に後押しされ、ストーブ列車は観光色を強め、運行を続けていけることになったのです。さらに、地吹雪ツアーの勢いに続くように、太宰治の生家である斜陽館が観光施設になり、津軽三味線会館が開館と、冬の観光スポットができていきました。

ストーブ列車は、地吹雪ツアーのプランに組み込まれていた時代を経て、今は独立して運営しています。しかし、地吹雪体験と雪景色を楽しむ列車の旅の相乗効果は続いています。

車内では、りんごチップス、日本酒、いかなどさまざまな地元の物が販売されます。

もんぺとかんじきを身につけるのは一苦労。少し滑稽な姿にツアー客の距離が縮まります。

臨機応変の地吹雪ツアー

地吹雪ツアーは、1月〜2月にかけて毎週末開催されて、その参加者は27年間で累計12000人にもなります。取材時の翌週にも100人の台湾人観光客が来ることになっていましたが、普段の参加者は15人ほど。天気が安定しないなかでも、臨機応変に対応します。

実際に参加したときは、この地域特有の雪囲いを見せてもらい、その後、かんじきにもんぺ、角巻という姿で、雪原を駆け巡りました。雪上では角巻は敷きものにもなり、そこに腰掛けていただくコーヒーは最高においしく、雪上のピクニックの清々しさに感動。まさに、足下の魅力を楽しむ喜びを教えてくれるツアーなのでした。

ちなみに角巻とは、かつて津軽で嫁入り道具でもあった防寒具。分厚い綿製ですっぽり体を覆うと、とても暖かいのです。今では生産されていませんが、ツアー用に集めて、昔ながらの津軽の文化を体験してもらう工夫をしています。
地吹雪という希有な着眼点で、人気を集める地吹雪ツアーと雪国ならではのストーブ列車。どちらも“奥津軽にもともとあるもの”を上手に活かして観光客の獲得に成功しています。地吹雪ツアーへの参加者は、遠方の人ばかりではありません。市内、青森県内の人も、「一度体験してみたくて」と訪れ、ストーブ列車に「なつかしいね」と顔をほころばせます。

「雪がないときはどんなだろうね」。一面の雪景色を堪能したお客さんは、そんな言葉を口にするそうです。「春の桜や夏の景色、雪が溶けたこの土地を見たいと思ってくれる、これが嬉しいんだ」と角田さんは満面の笑みで教えてくれました。冬の観光の種まきが、これから始まる季節に足を運んでもらうきっかけをしっかりとつくりだしているのです。

地吹雪ツアーの格好。角巻と分厚いもんぺはとても暖かい。

家の雪と風から家を守る「カッチョ」。鉄板では折れるので、ひばで作るのが習わし。

地元を盛り上げようと、元気に人を引っ張ってきた角田さん。

 

ページトップに戻る