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キリン×遠野市

サスティナブルな地域活性化を
生み出す視点。

日本でもトップクラスの生産量を誇るホップの生産地である岩手県遠野市。

キリンのまちづくり応援プロジェクト

キリン株式会社(社長:磯崎功典、所在地:東京都中野区)は、事業活動を支えてくれている地域との「つながり」を大切にして、地域振興や交流の場作りを支援する活動を行っている。その一つに、キリンがまちづくりを応援しているTONO BEER EXPERIENCEがある。地域活性化を目指す岩手県遠野市が、地元の大切な資産であるホップの魅力を最大限に活用して未来のまちづくりに取り組むもので、遠野市とキリンの協働プロジェクトだ。

TONO BEER EXPERIENCEがいかにして生まれ、何を目指しているのか、キリン株式会社CSV本部CSV推進部絆づくり推進室の浅井隆平さんにお話を伺いました。


地域リーダーを育てる

「TONO BEER EXPERIENCE誕生につながる話になるんですが、キリン絆プロジェクトという東日本大震災の復興支援プロジェクトチームを2011年7月に立ちあげました。沿岸部を中心として岩手・宮城・福島の復興支援をはじめて5年、今もなお継続しております。

我々もキリンビール仙台工場が津波で被災しましたが、コア事業が飲み物の会社ですので、食産業の復興なくして、我々の事業の復興もなしということで、東北の岩手・宮城・福島の農業と水産業の復興支援に注力しています。

特長的なのは、将来にわたる地域リーダー育成支援にかなり特化しているところです。農業・水産業とかまちづくりの復旧ということでいろいろな復興支援に取り組む中で、短期的には復興してきたことを実感できたのですが、そのまちを将来的にひっぱっていく次世代の地域リーダーの台頭なくして、本当に復興といえる状態なのかという壁に打ち当たりました。そこで、将来にわたる地域リーダー育成支援に特化した復興支援を行うことにしました。

その象徴的な取り組みが、東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクトです。2013年〜2015年まで、岩手・宮城・福島の三県から先進的な農業にチャレンジしている人材や、将来的にまちのリーダーになる逸材を毎年30名募集し、復興プロデューサーとして養成しました。

このプロジェクトでは、農業に毎日従事しているだけでは、なかなか身につけられないスキルを伝授していました。例えば、農業経営するために必要な財務の視点だったり、地域をデザインしていく方法、イノベーションの起こし方などです。

また、東京のビジネスパーソンを対象に、丸の内朝大学で復興プロデューサー講座を実施しました。ここには、復興プロデューサーとしての知識を学び、東北の復興に活かしたいという熱い想いを持ったプレーヤーが集結していました。通常の朝大学は一講座で三ヶ月のところ、これは通年の講座として実施し、124名の復興プロデューサーを東京に誕生させました。

さらに、この東北と東京のプレーヤーを相互に掛け算することによって新しい農業ビジネスを生み出していくという、単なる座学で終わらない、実践型のプロジェクトを展開しました。

採れたてのホップ。遠野の大切な資産である。

東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクトのフィールドワーク実施風景

丸の内朝大学「復興プロデューサー講座」の授業風景。

キリンが遠野で、いろいろな活動ができるきっかけになったのが、株式会社遠野アサヒ農園の吉田敦史さんが、東北農業・復興トレーニングセンタープロジェクトの一期生として参加されたことでした。この吉田さんは横浜出身で遠野にとってはよそ者。もともとは東京の広告代理店で13年間バリバリの営業として働かれていた方です。たまたま奥様が遠野のご出身で実家が農家だったこともあり、2008年に遠野に移住して、農業生産法人を立ちあげます。吉田さんは農業を始めてから、消費者の顔が見えない仕事に違和感を感じ、農作物のニーズを知るために、いろんな飲食店にヒアリングに行ったそうです。そこで出会ったスペインバルのオーナーさんに、パドロンというスペイン野菜のことを教えてもらいます。パドロンは、スペインではビールに合う野菜おつまみとして親しまれているが日本では作られていないので、その店では獅子唐で代用していました。オーナーに、もし日本で作れたら是非欲しいと言われたことをきっかけに、2012年頃から小規模レベルでパドロン作りを始めます。東北農業・復興トレーニングセンタープロジェクトに吉田さんが参加されたのはこの時期です。

ある時、パドロンが非常に面白いんだと、吉田さんがプロジェクトメンバーに熱弁をふるっていたんです。この吉田さんの思いに呼応したメンバーと一緒にパドロンを広めるため、さまざまな活動をはじめました。

例えば、パドロンを遠野に根付かせるため、遠野パドロンの苗を植える定植イベントを実施しました。遠野TV、遠野市農家支援室、遠野市内のNPO団体、遠野パドロン生産者になってくれそうな近隣の若手生産者たちも一同に呼んで官民一体となった賑わいをつくりました。

イベントに沢山の人が集まったことで大きな反響がありました。若手生産者の人たちからは、若手生産者のコミュニティは狭いと感じていましたが、吉田さんが東京の人たちと結びつきあいながら農業ができているなら、もしかしたら自分たちにも、何かできるのではないかという期待感。行政からは、東京のプロフェッショナルと組めば、自分たちだけでは出せなかった知恵で、遠野を活性化できるのではないかという期待の声があがっていました。このイベントがきっかけとなり、官民一体となって地域を活性化していく活動が加速していきました。

我々が遠野の活動で学ばせていただいたのが、何か企業が地域にするという考え方は、非常におこがましいということです。昔は工場を建てたら雇用が生まれるというのが、一番分かりやすいパターンだったと思いますが、今はそうではない。我々のビジネスの中だけで地域に役立つことを考えてしまうのは発想がすごく乏しい。我々はサラリーマンで、今は遠野担当でも、いずれは異動してしまう。でも、吉田さんのような未来のまちをつくる地域リーダーは、そのまちに永住を決め、そのまちのためにイノベーションを続けていく。地域リーダーと出会うことが、企業にとって非常に大事なんだなってことを、今すごく実感してます。また、共に描くビジョンの実現には、一緒に汗をかいてくれるチームを作っていくことも大切です。あと、どんなに小さなことでもいいからチャレンジしていくことが、地域においては非常に大事だと思います。」と浅井さんは話します。

この小さなチャレンジの積み重ねがその後、ホップの魅力を最大限に活用した未来のまちづくりTONO BEER EXPERIENCEにつながっていきます。

遠野アサヒ農園の吉田敦史さん。後ろには、自身で育てたホップ畑が広がる。

遠野アサヒ農園産のスペイン野菜「パドロン」。見た目はピーマンに似ている。

パドロンの素揚げ。スペインでは素揚げして塩をまぶした料理がビールのおつまみとして親しまれている。

「ホップの里」から「ビールの里」へ

「「遠野市とキリンは“「ホップの里」から「ビールの里」へ”を合い言葉に2015年、TONO BEER EXPERIENCEをスタートさせました。「ビールの里」で体験できるコトづくりということで、遠野ビアツーリズムという、ホップ畑でビールを楽しむイベントだったり、大型のビアフェスタ、遠野ホップ収穫祭など、遠野でしかできない体験型イベントを昨年から開催しています。」と浅井さんは話します。

TONO BEER EXPERIENCEをスタートさせた背景には、日本でもトップクラスの生産量を誇るホップ生産地遠野のホップ生産量がピーク時の4分の1にまで落ち込み、近い将来、国産ホップを使用したビールが飲めなくなる危機がありました。爽やかで豊かな香りや苦みを生み出すホップは、ビールには欠かせない原料のひとつで、『ビールの魂』とも言われています。キリンは遠野とのホップ契約栽培を53年間続けており、ホップの安定供給のためにも遠野を盛りあげようと、これまで、遠野を「ホップの里」とPRしてきました。しかし、それだとホップ自体を知らない人が圧倒的に多い中で、全然遠野の良さを伝えられていないことに気付きました。そこで、考えに考えて生み出した答えが「ビールの里」作りでした。

「イベントには、首都圏のお客様をお連れして、生活者の視点から情報拡散してもらう活動を積み重ねています。最終的にはホップ農家を確保していかなければならないという大命題があるので、情報を絶えず発信することが重要です。新規就農したいという若者に、作りたい野菜を5個あげてみてといってもホップは候補にあがらない。新規就農者に「ビールの里」のまちづくりのメンバーとして遠野に移住してもらい、ホップ栽培に取り組んでもらえるよう心がけています。

そのかいあって、昨年は5名の移住者がありました。今、遠野アサヒ農園の吉田さんのところで研修をしています。今年も1〜2名増えるので、最大で7名になる予定です。毎年、ホップ畑が大きな規模で減少していたのですが、今年ついに下げ止まりました。歴史的な1年になると思います。ここから、ホップ作りも活性化させていくし、それ自体がまちづくりにつながる仕組みに育つよう奮闘しています。」と浅井さんは話します。

遠野のホップ畑。爽やかで豊かな香りや苦みを生み出すホップは、ビールには欠かせない原料のひとつ。

爽やかなホップの香りに包まれたホップ畑のなかで、ビールを楽しむ体験型イベント「遠野ビアツーリズム」。

遠野の名物料理とビールで、ホップの収穫をまちをあげて祝う「遠野ホップ収穫祭」。

遠野アサヒ農園の若手研修生と吉田さん。

サスティナブルな地域活性化へ

TONO BEER EXPERIENCEは、この先の50年で「ホップの里」から「ビールの里」になることを目指す、遠野を活性化するプロジェクトです。さらに、この春、遠野のまちを大きく変えようとする新たなプロジェクトが誕生しています。

「Next Commons Labというプロジェクトが、この春、遠野でスタートしたんです。Next Commons Labは、ソーシャル系の分野で実績のあるパラミタという会社の林さんが遠野市に提案して実現させた、ローカルベンチャースクールという起業に特化した地域おこし協力隊制度を活用したプロジェクトです。Next Commons Labが活用しているローカルベンチャースクール制度は、地域で既にがんばっている地域リーダーたちの夢を達成するためのパートナーとして、こんな能力、こんな志を持った人にきてほしいと具体的な職能を持った人材を地域側から募集することでミスマッチを無くす工夫もしています。

Next Commons Labには10のプロジェクトがあり、キリンも吉田さんをリーダーに据えた、ホップ栽培とクラフトビールで地域を変える「Beer Experience」プロジェクトに参画しています。このNext Commons Labのメンバーは、地域にはない価値を生み出すことや地域における課題解決の範囲を広げるために、企業を巻き込むことにメリットを感じている人たち。このメンバーが遠野に移住し、プロジェクトに従事することは、遠野とキリンにとって大きなメリットになります。

遠野とキリンの関係をサスティナブルにするには、両者をつなぐ人が絶対に必要です。今は、自分が遠野に入り込むことで、遠野とキリンをつないでいますが、将来的にはこのNext Commons Labから、遠野とキリンをつないでくれる人材が生まれてきてくれると思います。」と浅井さんは話します。

TONO BEER EXPERIENCE、そして新たに動き出したNext Commons Lab。今、遠野で動くプロジェクトの未来は、サスティナブルな地域活性化につながっていくことでしょう。そして、この遠野のプロジェクトは遠野以外の地域が抱える課題解決にもつながるモデルになるのではないでしょうか。

Next Commons Labプロジェクト説明会実施風景。

キリン株式会社CSV本部CSV推進部絆づくり推進室の浅井隆平さん 。

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