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ユーグレナ × 竹富島のクルマエビ

地域に寄り添い、
島の潜在力を引き上げる。

写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

要約すると…

  1. ユーグレナ社が竹富島にある企業・竹富エビ養殖を子会社化した。
  2. 住民のなかには、島の名士が作ったクルマエビの養殖池でミドリムシを培養するのではないかと心配する人もいた。
  3. 様々な工夫から、現地スタッフや地域住民と良好な関係を築くことができた。

きっかけは、創業者からの依頼。

ある日、ユーグレナ社に1つの依頼が届きます。それは、水牛車や赤煉瓦の民家など沖縄の原風景が残る非常にのどかな竹富島から。約30年前、人口減少を危惧した島の名士が創業した竹富エビ養殖株式会社(以下、竹富エビ養殖)からのものでした。

内容は、「八重山地域で新しい産業を興したり、地域振興をしたりしている姿を見ていて、御社とぜひご一緒したい」というもの。ユーグレナ社の企業理念「人と地球を健康に」を共有でき、地域に根を張り尽力してきた企業であること、さらには養殖用の餌や水質維持にユーグレナ社が研究のメインとしている微細藻類を利用していたことから、2015年9月から竹富エビ養殖を子会社化することが決まります。(竹富エビ養殖は、ユーグレナ竹富エビ養殖に名称を変更)

写真提供:竹富町

小さな島への参入。

石垣島から10分ほどのこの島は、サンゴ礁でできているため耕深度がないに等しく産業といえば観光がメイン。さらに、自転車で半日もかからずに巡ることができる人口350人の島。企業間でメリットがあっても、外部から企業が入っていることもほとんどなかった小さな島に、東京の大企業が入ってくることに抵抗を感じた人も。なかには、島の名士が約30年かけて産業にしたクルマエビ養殖池を、ミドリムシの培養に使うのではないかと心配する人もいた。

※竹富町地区別人口動態票(平成30年8月末)より

のどかさを象徴するような竹富町の憲章。(竹富町とは沖縄にある八重山諸島のうち西表島、鳩間島、由布島、小浜島、波照間島、新城島、黒島、竹富島のことを指す。)

島の環境を、第一に。

台風の影響を受けないよう陸上に作った養殖池。排水口の先は島民が大切にしている豊かな海だったため、地元には反対派もいたという。

ユーグレナ社としても、このエリアを大切にしたい気持ちは同じでした。というのも、八重山諸島は、世界で初めて微細藻類ユーグレナの屋外大量培養に成功し、グループ企業もある主要な研究・生産拠点。

海に悪影響がないよう養殖固形排泄物は敷地内の草地に散布すること、海水の富栄養化を考慮し低密度飼育にすること、池の耐久性を考え無理に出荷量を増やさない(年間50tをキープ)ことを大きな方針にして養殖をスタートさせます。

結果、排水口付近は島の漁師が定置網を設置するほど多くの魚が集まり、反対していた漁師からは「ぜひ事業を続けてほしい」と言われるまでに。また、ゆったりとした環境でクルマエビを育てることで活きが良く、高品質に育っている。

東京ドーム1.5倍という沖縄県最大の陸上養殖池。日本一高い位置にあるクルマエビ養殖場で、台風や病気の被害を受けにくい。写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

地元住民や現場スタッフに寄り添う。

竹富エビ養殖は、島の名士が立ち上げた島民から約30年も愛されてきた企業。そのため、まずは現場の意見を尊重し、ユーグレナ社の理想に近づけるよう努めている。

コミュニケーションは非常に親密で、ユーグレナ社で事業開発を担当する30代前半の女性は東京から移住し、毎日のようにスタッフを褒め、ビーチクリーナーを使用するほど大規模な養殖池の掃除にも率先して参加。休日も現地スタッフと共に過ごすほど仲が良く、共に笑い、共に汗を流すことで、何でも話しやすい関係を築いている。ユーグレナ社の安全管理や経理担当者も、こまめに来島。顔を合わせたコミュニケーションをとても大切にしている。

また、社員数9名と少ないためシステム化されていることは少ない。ある程度スタッフの裁量に任せることで、それぞれが工夫を凝らし楽しみながら仕事に取り組んでいることも大きな特徴といえるでしょう。

大規模な養殖池は、観光施設のビーチ用機械で掃除している。写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

養殖したクルマエビは、手作業で丁寧に選別している。写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

多様な地域活性プロジェクト。

ユーグレナ社では、竹富エビ養殖を子会社化する約3年前から“みーふぁいゆープロジェクト”という八重山諸島(当初は、石垣島)の地域振興活動を行なっている。それは、ユーグレナ社が世界で初めて微細藻類ユーグレナの屋外大量培養に成功したのが石垣島だったことに由来しており、みーふぁいゆーとは八重山諸島の方言で「ありがとう」を意味している。

活動は多岐に渡り、小中高校生向けの理科実験教室、地元女子高生や商店街振興組合との特産品開発、地元プロバスケットボールチーム支援、商店街や離島ターミナルのネーミングライツ取得…。スポーツ・教育、環境保護、観光誘致促進や雇用創出など、多方面から地域を盛り上げている。

写真提供:株式会社 ユーグレナ

ユーグレナ竹富エビ養殖だけを特筆しても、若者の雇用創出や移住促進、理科実験教室、お祭りやイベントへの賞品提供など多数ある。また、スタッフがエビの仮装で地元のマラソン大会に参加し、企業の認知度向上と共に島を沸かせたこともあり、ユーグレナ竹富エビ養殖は八重山諸島にとって非常に身近な存在になっている。

石垣島マラソンで、ユーグレナ竹富エビ養殖をアピールしながら走りきったスタッフ。写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

東京本社にも良い影響。

ここで養殖する“みどり車海老”は、温暖のため餌をよく食べ成長が速い八重山の高級クルマエビに、59種類の栄養素を擁する石垣島産ユーグレナを与えたもの。ユーグレナを餌とした世界初のブランド食材であり、県内初のブランド車海老を育て上げた。

ユーグレナ社では、うまみ成分の含有量が増加し、苦み成分は減少したという研究成果も出ており、日本の南に位置する小さな島で、素晴らしい食品を育て上げたことは、ユーグレナ社にも大きな刺激となっている。

おがくずに入り、生きたまま届くクルマエビ。写真提供:ユーグレナ竹富エビ養殖 株式会社

日本の水産業を、元気に。

今後は、価格が維持できるよう市場メインから直販メインへシフトしたいと考えている。それは、クルマエビの養殖は温度が大きく関係しており、本州と沖縄の出荷時期が異なるため。特に、沖縄は生産量が日本一。このエリアの市場で競い合うと、出荷のピーク時にはどうしても価格が下がってしまう。

また、養殖場長は国内外の様々な水産現場を経験しており、これから学生の卒業研究やインターンを積極的に受け入れ、日本の水産業界を元気にしていける場にしていければとも考えている。

その土地の人々を想い、地域の潜在能力を地元の人々と引き上げた好事例は、これから多くの企業の参考になりそうです。

 

クルマエビの養殖や竹富島のことを随時更新する“ユーグレナ竹富エビ養殖インスタグラム”もあわせてどうぞ。

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