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資生堂×与那国島の長命草

「美」のための材料調達、
離島だって遠くない

海から望む与那国島。面積は28.88㎢で、自転車でも3時間弱で一周できる。

与那国島の健康を支えてきた食材

「長命草」という、名前を聞いただけで健康に良さそうな草があります。この草はセリ科の植物で、ボタンに似ていることから、和名をボタンボウフウといいます。九州南部から沖縄にかけての海岸に自生していますが、特に与那国島にはたくさん生え、健康を支えてきました。

与那国島は、石垣島と台湾のほぼ中間にあり、日本最西端に位置する島。約1600人の人が暮らしています。外海に浮かぶ島なので、潮風が吹きつけ紫外線が降り注ぐ、厳しい環境。しかし、この潮風と紫外線が、生命力が強く、美容成分も豊富な長命草を育ててきました。一般的な野菜が育ちにくい与那国島では、ビタミン、ミネラル、食物繊維などの栄養素を取り込むために長命草はなくてはならないものだったのです。

しかし、当たり前に海岸や庭先に生えているので、長命草は最近まで特別なものとは考えられてきませんでした。

岸壁に自生する長命草。東京で栽培しようとしてもうまく育たない。

資生堂の素材探し

一方資生堂は、“資生堂らしい青汁”をつくるべくアンテナを張っていました。その頃、世の中の青汁のイメージは「健康にいいけれど飲みにくい」もの。「美容にいいしおいしい」青汁をつくりたいという想いが募っていました。
資生堂には、日々世界中の“美容にいいもの”の情報が入ってきます。もちろんその情報は玉石混合。しかしそのなかで、「長命草には当時の事業戦略部長がビビビッときちゃって」と話してくれたのは、自身も立ち上げに関わり、現在はヘルスケア部門のPR担当髙橋七奈さん。開発チームは与那国島へ向かい、長命草の生葉と水だけで搾ったジュースのおいしさに、衝撃を受けたといいます。従来の青汁といえば、粉末を溶かすタイプが主流でしたが、ドリンクタイプの商品にしようと決まりました。

「資生堂はすべての女性が美しく生きるための商品をつくる。そのことが最優先。そのための青汁の原料が、たまたま日本最西端の島だったんです」と髙橋さんはいいます。

材料が一級品なのは間違いない。しかし、与那国島のコミュニティに入っていくために、与那国島に何十回も通い、長命草と島の人々の背景をリサーチしていきました。「農家との直接取引は資生堂にとっても初めての試みだったんです。ですから慎重にもなりましたし、信頼関係を築くことを第一に考えて、プロジェクトは進んでいきました」と髙橋さんは振り返ります。

契約農家の長命草畑。農薬は使わず、一株一株丁寧に栽培し、収穫も手摘み。

は肉厚で苦みやクセはない。与那国の郷土料理では酢味噌和えにして食べる。

台風で苗が流されてしまったときには、資生堂の社員が島へ行き、苗植えを手伝った。

長命草は多年草なので年2〜3回収穫できる。

サトウキビに替わる農産物として

2008年、「長命草〈ドリンク〉」と「長命草〈タブレット〉」が満を持して発売されました。与那国島の風土と人と長命草が織りなすストーリーを、しっかり盛り込んでの商品化です。

現在、商品は新たに加わったパウダータイプの青汁も入れて3つ。リピーターも多く、売り上げも好調です。そして、契約農家もこの5年で60軒ほどにまで、増えています。大型機械を使うサトウキビ栽培から鎌一本で収穫できる長命草栽培に切り替える高齢者がいるなど、与那国島の農業の未来にしっかりと寄与して、資生堂の取組みは進んでいるのです。

長命草契約農家。資生堂との取引きが始まり、仲間は確実に増えている。

「長命草〈タブレット〉」は、1日6粒で、生葉12枚相当を摂取できる。

「長命草〈ドリンク〉N」は果汁がブレンドされており飲みやすい。100%リサイクル可能な紙製飲料容器を使用。

「長命草〈パウダー〉N」は2014年1月に新発売。水などにさっと溶け携帯に便利な個包装。

心地よいパートナーシップ

もちろん、商品化から5年の間、順風満帆だったわけではありません。長命草の花が咲いてしまい商品にならなかったり、台風被害で苗が流されてしまったりと、自然相手の厳しさにも悩まされました。

しかし、そこは島に通いつめた資生堂と長命草契約農家の関係です。台風の後、資生堂の社員が、与那国島にひとっ飛び。新しい苗の植付けに約50人が参加したといいます。

「与那国島の皆さんと、原料調達にとどまらないお付き合いができているのは嬉しい。お互い顔が見える取引きをして、商品の背景や愛着も増えています」と髙橋さん。2013年末には、「長命草感謝祭」を与那国島で開催。100人ほどの契約農家や関係者が参加しました。「飾りつけも手づくりしたんですよ。長命草についての振り返りから伝統舞踊の披露まで、温かくてとても楽しい会でした」と振り返るのは、感謝祭に参加した髙橋さんと同じPR担当の前田利子さん。「長命草の青汁をきっかけに、与那国島に行ってみたいという取引先のお客さんもいらっしゃって。そんな方々は与那国島を訪れたりもしています」といいます。

資生堂とつながったのは、与那国島の契約農家にとどまりません。長命草を生んだ豊かな自然について知ろうと、地元教育委員会の協力を得て『よなかま図鑑』を製作。島内の幼稚園児、小中学生に配布する活動もしました。今後も、与那国島の環境保全のお手伝いを計画していきます。

おいしい青汁を飲んで多くの女性にキレイを叶えてほしい。そのシンプルな想いから、たどり着いたのが、日本の一番端の小さな離島でした。資生堂の美への想いは、距離を飛び越えて縁を結び、新たなパートナーシップが着実に育っています。

髙橋さん(左)と前田さん(右)。お二人とも与那国島には愛着たっぷり。終始笑顔で島のことを語ってくださいました。

与那国島の子どもだけが手にできる「よなかま図鑑」。137種類の与那国島の動植物を掲載。

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