ソーシャルグッドな地域資源のアイデアマガジン Local Resource News

モノファクトリー × 産業廃棄物

“廃棄物”のリアルをシェアして、
“資源”に変える。

要約すると…

  1. 1日50t出てくる廃棄物を、95%以上リサイクルできていた。一方で、廃棄物には形がおもしろいものが多く、そのおもしろさをそのまま使えないかと考えていた。
  2. 廃棄物からモノをつくり、新しい可能性を展示会でお披露目。さらに、魅力を感じる廃棄物を“マテリアル”と呼び、使用方法と共に紹介し始める。
  3. 「もったいない」ではなく「おもしろいから使おう」など、廃棄物への意識変化が起き、仲間が増えてきている。

廃棄物の価値を上げる方法を、全社員で探る日々。

2010年群馬県にある廃棄物中間処理会社・ナカダイは、1日50tの廃棄物を扱っており、当時のリサイクル率は95%以上を誇っていました(2020年現在は99%)。

それは、ナカダイが常々“モノの最後”を担っていることを自負していたことの賜物。「分ければ資源、混ぜればゴミ」をモットーに、全社員が廃棄物の知識を現場で身につける方針。お客さんから引き取った廃棄物を自ら荷下ろし、提案通りに分別できているか、容器に不具合がないかなどをすべての社員が体験していました。

たとえば排出されたプラスチック素材も一括りにすることなく、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)など単一素材として分別。可燃性や炎の色・ニオイなどを頼りに、社員一人ひとりが職人のようにプラスチックの素材を区別します。

また、現場に足を運ぶだけで、想像していない現実に遭遇することも。たとえば、欠品を防ぐための在庫、電池の絶縁シートなどの端物、海外からのワンウェイ容器など。新品もしくは1度しか使用していなくても、廃棄されるモノが多数あること。廃棄物を見るたびに 代表・中台さんは「形のおもしろさを、そのまま使用できないのだろうか」と考えていました。

電池の絶縁シートとして打ち抜いた後の端材。

クリエイターと共に、廃棄物に新しい価値を。

どのようにアウトプットしたらいいか迷っていたとき、中台さんはクリエイターにアプローチすることを決意。“廃棄物=素材”と捉え直し、クリエイターと共に「TOKYO DESIGNERS WEEK2010」で廃棄物の新しい価値を展示することにトライします。

そもそも中間処理業者は、廃棄物の品目ごとに各行政に許可をもらうことで取り扱いができ、ナカダイが扱うモノは、プラスチック、紙、木材など13種。取引先企業は自動車、電子機器、化粧品、ベビー用品、洗剤メーカーなど多岐にわたります。これだけ、異業種のモノが一堂に集まる場は案外めずらしく、新しい価値を想像することができるかもしれないと考えていました。

参加した「TOKYO DESIGNERS WEEK2010」のコンセプトは「環境」。そのため、ナカダイは自身のブースだけでなく、オフィシャルカフェエリアを主催者と担当。廃棄物生まれのイスやテーブルが並ぶ他では見られない風景をつくり、制作者・来場者という両方のクリエイターたちに廃棄物に目を止めてもらうことに成功しました。

「TOKYO DESIGNERS WEEK2010」に設置された廃棄物を使ったカフェ。(写真提供:モノファクトリー)

廃棄物を見ておもしろいと思った体験を、多くの人に。

翌年からは「産廃サミット」を主催(共催:多摩美術大学)。第1回目は、“廃棄物を言い訳にしない”をテーマに、廃棄物という素材(マテリアル)の様々な使い方を創造する、当時の日本で唯一のイベントをつくりあげます。

学生、デザイナー、建築家の50作品が多摩美術大学上野毛キャンパスで展示されるのを目の当たりにして、中台さんはアウトプットの多彩さに圧倒されます。それぞれの目線で、それぞれの年齢で、それぞれの感性でモノをつくっている。大人の世界でいう”正しい”や”間違っている”は無いということに改めて気づいたといいます。

「第1回産廃サミット」。(写真提供:モノファクトリー)

さらに2012年初め “発想はモノから生まれる”をコンセプトにした「モノファクトリー」を群馬県前橋市にオープン(事前に、西麻生工場・京都工場でお披露目会を開催)。ここでは、ナカダイで中間処理(主に選別)され、排出事業者からそのままの形状での使用許可をとったモノのみを仕入れています。それら廃棄物由来の素材を独自に”マテリアル”とネーミング。多様な素材と使い方を提示するショールームで、学び・体験・発見ができ、「廃棄」を「生産」へと変えるモノの新しい価値と流れを生み出すことに挑戦し始めます。

現在のモノファクトリー(品川ショールーム)。

そこでは、野菜の生産者表記や商品タグのようにその廃棄物がもとは何だったのかという“マテリアルプロフィール®”を表示して、種類ごとに展示。図書館のように、多様なジャンルが揃い自由に閲覧できることから“マテリアルライブラリー®”と命名しました。さらに、マテリアルを使った工作やパソコン解体ワークショップ、マテリアルの販売なども。原寸大の多種多様なマテリアルが一堂に揃うスペースで、見る側の想像力を刺激し、それぞれの生活や職業での使い方などに思いを巡らせられるような機会を創出しています。

現在のモノファクトリー。それぞれにマテリアルプロフィール®が表示されている。(品川ショールーム)。

いわば、以前から中台さんがモノを見て好奇心がくすぐられた経験を、いろんな人にも体験してもらうようなスペースをつくりあげました。同年3月からは、都内など遠方も含む工場見学ツアー(群馬)も開催。参加者には、情報社会なのになぜか情報が行き渡らない廃棄物について丁寧に紹介しています。

現在のモノファクトリー(品川ショールーム)。手前は、LANケーブルを裂いたもの。

企業とビジネススキームを構築・共有。

ゴミと呼ばれるモノの流れを変えようと奮闘していると、様々なお誘いも増えてきました。2012年は東急ハンズでMONOマガジンとコラボした限定バック、さらにナカダイのマテリアルを店頭販売。同年は工場の見学者も大幅に増え、1,000人を超えています。

2013年からは表参道ヒルズで子供向けのワークショップを開催したり、企業や地元の方、子供会など工場見学に訪れる人の幅も広がりました。3回目の「産廃サミット」は、東京・赤坂で開催(共催:プラス株式会社)。これまでのテーマ“廃棄物を言い訳にしない”に、“モノの使い方を創造する”というキーワードを追加します。作品展示だけでなく、約100種のマテリアル(素材)や廃棄物から生まれた商品、スクラップした大量の自転車などの展示、廃棄物を使った教育者向けのワークショップ(講師:まちの保育園 )などにも取り組むことができ、モノの流れを変えるリマーケティングビジネスが世の中に定着する手応えを感じるようなイベントになりました。この年は「グッドデザイン特別賞 未来づくりデザイン賞」を受賞。より多くの人から注目を集めるきっかけが数多くつくれた年となりました。

表参道ヒルズで開催された子供向けワークショップ。(写真提供:モノファクトリー)

2017年には、東京R不動産を運営する株式会社オープン・エーの馬場さんからお声がかかり「棄てられたモノを、再び社会に投げ返す」というコンセプトのもと、産業廃棄物から新たなプロダクトをつくるプロジェクト「THROWBACK®」がスタート。ユニークでデザイン性の高いプロダクトが数多く生まれています。

THROWBACK® プロダクトの一例

廃棄理由=廃校など

・跳び箱→デスクとベンチ

・小学校低学年向けの椅子→カウンター向けのハイチェア

廃棄理由=LED普及など

・高速道路などの街灯→フロアスタンド  など

跳び箱を再利用した「VAULTING BENCH & TABLE」。(写真提供:モノファクトリー)

「THROWBACK®」で生まれたプロダクトの一部。(写真提供:モノファクトリー)

また、隈研吾都市建築設計事務所が「ハモニカ横丁ミタカ」を設計する際、放置自転車360台の前輪を提供。同じモノが繰り返しならぶ外装は、どこにも無いインパクトのある景色を生み出しました。

放置自転車360台の前輪を外装や店舗什器にした「ハモニカ横丁ミタカ」。(写真提供:モノファクトリー)

モノをデザインする段階から、サポートする。

京都議定書、パリ協定、SDGs、海洋プラスチックの議論などに続き、2017年は中国がプラスチック資源の輸入を全面禁止にした環境問題の大きな転換期。輸出先を中国に頼っていた日本は、自国で使ったモノを国内で適正処理しなければならなくなりました。メーカーは、商品をデザインする段階でゴミ回収まで思考することが、今後ますます必要とされる時代に突入します。

この年は、環境ビジネスを推し進めていくためにモノファクトリーを法人化。株式会社モノファクトリーを設立しています。

2019年は、伊藤忠リーテイルリンクとモノファクトリーが協働。比較的リサイクルしやすい素材で出来たスーツケースを購入した方に、使用済スーツケースの下取りを行うキャンペーンを開始。下取り後はナカダイの工場内で部品ごとに細かく解体され、素材ごとにリサイクルを進める流れへ。商品を製造・販売する企業が、使用済商品を回収・リサイクルを行う新しい循環を生み出すことができました。

スーツケースを解体する様子。(写真提供:モノファクトリー)

廃棄物が、ふつうの素材として扱われる社会を目指して。

この事例のように、廃棄された段階からアイデアを考えるのではなく、メーカーと共に捨てることを想定した商品開発・販売・回収のスキームを構想しています。たとえば、分解しやすい構造、廃棄段階でも素材がわかる表示、商品購入と分別廃棄をセットで伝えることなど。現実的なビジネス創出のために、2018年からは「産廃サミット」を群馬工場に移し、企業とのコラボ実績やそのスキームを紹介するスタイルにシフトしました。

また「ゴミを捨てた後、CO2はいつ排出されているのか」「生分解性プラスチックは、なぜ環境にいいのか」「プラスチック製より紙製のストローの方が、地球にいいのか」など。CO2=悪、生分解性プラスチック・紙ストロー=善というところで思考を止めずに、なぜ?と少し立ち止まって、多くの人に廃棄物の背景について知ってもらえればとも。そこで、2019年の「産廃サミット」の時機に、環境やモノファクトリーの理念について知ることができる小冊子をグラフィックデザイナーと制作。さらに、バラエティ番組やファッション誌など多くの人に親しみやすいメディアにも協力を続けています。

モノファクトリー(品川ショールーム)では、2019年「産廃サミット」のタイミングで制作したリーフレットを拡大して展示している。

さらに同業者であっても協力し、マテリアルリサイクルが良いとわかっていてもコスト面や運用面で二の足を踏んでいたら、スキームも開示すると決めています。たとえば、道の駅のように各地にモノファクトリーのような施設ができると、地域性も出ておもしろいのではという構想も。

企業、生活者、同業者など幅広い人たちにこれからもアプローチし、全国的に「捨てる」と「使う」をつなぐ場が広がるように。モノファクトリーでは、廃棄物がふつうの素材として扱われる社会、さらにいうと循環を前提とした社会を真摯に目指し続けています。

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