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フウド × 使われなくなった公共施設

見晴らしのいい元集会所から
島への移住者を増やす。

(写真提供:広島県

総務省の人口調査※1によると、2023年の自然減少数は79万3,324人。調査開始(1979年度)から最大の減少数となった※2。なかでも、離島は加速度的に減少※3。定期航路の廃止も相次いでおり、これまで以上に医療・福祉・産業・交通など生活サービスの維持が厳しくなることが予想されている。こうした状況のなか大小9つの島々で構成される広島県江田島市は、移住者が年々増加している※4。島の移住相談を担う「一般社団法人フウド」に、5年以上にわたるストーリーを聞いた。


島外の人が感じる、江田島市の魅力とは?

呉市の対岸にあり、複数の島からなる広島県江田島市。瀬戸内海に浮かぶこの島々は、約100km2。横須賀市と西宮市とほぼ同等の広さがあるが、人口は10分の1以下。平成の大合併といわれた時期に、4町(安芸郡江田島町、佐伯郡能美町・沖美町・大柿町)がまとまり市政移行したまちで、当時は本土と合併する離島もあるなかで、江田島市は大きな離島をメインにひとつの自治体になる道を選んだ。

人口、世帯数は、令和2年国勢調査より。(地図画像の提供:江田島市

そんな江田島市で移住支援を行うのは、一般社団法人フウド。実は、代表の後藤峻氏も移住者のひとり。以前は、都市計画から離島振興まで全省庁をサポートする都内のシンクタンク系コンサルタントに勤めていた。そこで担当していたのは調査・計画・伴走支援。実践は現地の人という状況にどこかもどかしさを感じ、2016年に江田島市へ移住した。ここを選んだ理由は、自身が広島県出身ということや、政令指定都市の広島市や中核市の呉市に約30分で行けること。病院・学校などインフラが整っており地域活性の文脈ではまだまだポテンシャルがあると感じたことや、島に庁舎があり行政が完結していることなど。なにより学生時代から社会や経済がコンパクトにまとまった離島に惹かれており、大学院ではクロアチア共和国の離島について研究し、会社員時代の約8年間では40にも及ぶ離島の仕事に尽力するほど強い興味と専門性をもっていた。

一般社団法人フウド代表理事の後藤氏。えたじまSUPインストラクター、ETAJIMA SEA SUPPORT副代表としての一面も。(写真提供:広島県

移住後は、江田島市で移住促進支援の地域おこし協力隊に着任。リサーチのためにさまざまな人に会うと、それぞれに好きなことを追求する魅力的な人が多く、広く伝えるためにWEBマガジン「江田島人物図鑑」を立ち上げた。みずから取材・執筆をするなかで、彼らが交流すると島がもっとおもしろくなるという確信と、交流する場が少ないという気づきから、そのための場を構想。おなじ頃、市役所の方から元集会所の物件を紹介され、島の魅力を象徴するような美しい夕陽が見える立地を気に入り、市に利活用を企画提案。採択後は、仲間やコワーキングスペースで働くクリエイター、工務店の方々とリノベーションし、2017年にコミュニティスペース「フウド」を開設する。

移住希望者の約9割が海の見える場所を求めており、フウドのある沖美町は特に人気が高い。建物は江田島市の所有物で、フウドは運営を委託されている。

あらゆる人の暮らしに、耳を傾ける。

オープンすると多くの人が足を運び、生活に寄り添うイベントや趣味・得意を活かしたイベントの開催、リモートワーク、移住相談、移住者の交流などさまざまな目的で利用してもらえるように。一方で、地元の年配者にはなかなか受け入れてもらえなかった。

フウドの様子。イベントには島内外から人が集まる。海外からの来館者も多い。(上左)ナイトヨガ、(上中)リモートワーク(上右)草刈りをするヤギ、(中左)地元高校生が動画づくりに利用(中央)ハンドメイドレッスン、(下左)蚤の市、(下中)隠岐諸島・知夫里島の元 地域おこし協力隊の方を招いた交流会、(下右)ドイツからのゲスト。

「『そこは若い人らの集まる場所なんじゃろ』『わしらには関係ないよな』『移住者が集まってるらしいで』とか、地元の年配者にはそういう評判だったらしいんですね。そう見えてしまってたのはしょうがないなと思いつつ、でもそういう方々にこそ親しんでもらいたいという気持ちが強くあって。スタッフが社会福祉協議会の方々と協力して、おじいちゃんおばあちゃんが集まっておしゃべりする月イチ地域サロンを開催し、回を重ねるごとに年配者にも親しんでもらえるようになりました」。

月ごとに企画を変える、月イチ地域サロンの様子。(上左・上右)昔の沖美町の暮らしを教えてもらう会、(右)流しそうめん、(下左)月イチ地域サロンを地元小学生が見学、(下右)絵を描く会。

後藤氏も、私生活でまちづくり協議会やお祭りなどに顔を出し、まちの人と着実に信頼関係を築いていった。自宅用に空き家を購入したことでも、ずっとこの島に住む仲間と認識してもらえたという。いまでは、幅広い年齢層の人々がフウドにふらっと立ち寄り、おしゃべりをするのが当たり前になっている。スタッフ間で重視してるのは、まず訪れた方の声に耳を傾けること。その後に興味がありそうな情報を伝えたり、話が盛り上がりイベント化することも少なくない。そして、ここはあくまで市の施設。訪れた人に負担を与えないことも大切にしており、1階のコミュニティカフェは広場に売店があるというような建て付けにし、飲食を購入してもしなくても長居できる雰囲気をつくりだしている。

市民とチームワークのとれた島案内で、移住者は4.5倍以上に。

同時に、個人や企業向けの具体的な移住施策も市役所と細やかに連携。来島者情報から見学スケジュールを考え、受け入れ時は小さなつぶやきも逃さず臨機応変に案内している。たとえば「水産業の現場を見てみたいんですよね」と言われたらすぐに現場にアポをとって連れていき、「もう少し小さい箱でいいんですよね」と言われると、別の空き家を案内する。これは、後藤氏が江田島人物図鑑やフウドで培ったネットワークや、地域おこし協力隊赴任時(2016〜2019年)から市役所のさまざまな職員と顔見知りになっていること。そして移住促進の運営が市の外側にあり、協働する市役所職員も柔軟に対応してくれるから成せる技。また、江田島市の職員は300人規模※5。そのため人事異動があっても、別の部署で移住相談をサポートしてくれるためスムーズにコミュニケーションがとれる。いわば、移住相談は市民みんなで取り組むもので、すべての市民が江田島市で暮らす先輩というスタンス。2020年に91件だった移住相談は2022年には173件になり、そのうち実際に移住したのは16人から73人と4.5倍以上に増えている。まちの人たちも移住案内に慣れてきており、「江田島は環境もよかったけど、島の人たちの受け入れ力がすごい」と島のハードとソフトの両面に好感をもつ声も出てきている。また、現地スタッフのリクルートまでフォローしてくれる面倒見のよさで、首都圏から3社の企業誘致に成功。サテライトオフィスだけでなく、本社機能をまるごと移転するほど島に惚れ込んだ企業もある。

フウドに移住相談すると、移住に必要なほとんどの情報を得ることができる。

未来の移住希望者にも江田島市の魅力を感じてもらえるよう、修学旅行や旅行会社のツアー企画といった観光振興、出前授業や体験プログラムといった海洋教育なども行っている。なかでも目を引くのが、「ETAJIMA VISIONARIES CAMP(江田島ビジョナリーキャンプ)」という社員研修。チームビルティングやリーダーシップ、ビジョンづくりなどニーズに応じた研修プログラムを企業にヒヤリングしながら研修プランをつくりあげるサービスで、若手社員向けや中堅・リーダー向け、管理職向けなどあらゆるレイヤーに対応できる。SUP、オリーブ植樹、焚き火トーク、無人島探索、旧海軍施設見学など江田島市ならではのアクティビティに、各分野のプロフェッショナルと練り上げた講義を合わせたパッケージプランだ。県内外から多くの企業が参加し、満足度アンケートでは10段階の9以上。2022年には富士通と江田島市がワーケーションパートナーシップ締結しており、来島者が増えるだけでなく、現地の人との交流が研修後も続くことが期待できる。

ゴールを移住者増にしない、移住相談。

フウドの名前は、風、海、土に由来する。海のそとから理想とともにやってくる“風の人”と、現実を見つめ地域に根をはる“土の人”がともに島を耕すことで、どこにもない独自のカルチャーを育てていく。つまり、名前に託したのは異なる魅力をもつ人たちが交流し、魅力的なまちを育むこと。目先の数値をゴールにしない移住相談のゆるさが、翻って移住者が増える秘訣なのかもしれない。

フウド開設から5年以上が過ぎ、島では個性豊かな移住者がそれぞれの場で活躍している。後藤氏は、改めて一堂に集まる機会をつくることで、もっとダイナミックな魅力が花ひらく島の未来を構想中だ。多種多様な仲間とともに、実践に移す準備をいま着々と進めている。

江田島市の三高港で、2024年2月11日に行われたETAJIMA NIGHT MARKET。フウドは運営で関わり、16~20時のみの開催にも関わらず人口約2万人の島に200人ほどの人が訪れた。

※1 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント
※2 外国人を除く日本人住民について扱った数字
※3 令和2年国勢調査によると計33万9280人。離島振興法の支援対象は2023年1月時点で、26都道県の77地域。有人離島は256島(平成27年調査より2島増加。前回は無人だった新島(鹿児島市)、馬毛島(西之表市)の人口が各2人となったため)。前回の平成27年国勢調査から5年間でマイナス9.8%に、平成22(2010)年国勢調査からの5年間ではマイナス9.2%に。
※4 島外からの移住者は増えているが自然減少数の方が多く、人口は減少している。
※5 令和3年4月1日現在の江田島市職員数は312人


一般社団法人フウド
所在地 :広島県江田島市沖美町畑997‐2
サイト  :https://fuudo.jp/

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