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いふくまち/ごしょがだに保育園 × 公園

公園づくりをきっかけに、
一人ひとりがもっと心地いいまちへ。

 

2021年秋に行われた衆議院選挙の投票率は、55.93%。戦後3番目に低い結果となった※1。20代に至っては、36.50%※2と極めて低い。さまざまな理由はあるが、この一因は「社会は、自分たちの手で変えられる」と実感しにくいからといわれている。そんな社会背景のなか幼児も含めだれもが社会をつくる一員と感じられるようなまちづくりを、福岡にある写真館兼写真ラボ「ALBUS(アルバス)」が2018年から小さな公園を使いスタートさせている。今回、その想いやストーリーに迫った。


だれもが気軽に集まれる場所とは?

ALBUS(アルバス)は、福岡で家族写真の撮影やフィルム現像などを行うお店。POP UPショップやトークショー、写真スクールなどのイベントを開催したり、夏休みの子どもに店長を体験してもらったりと、まちづくりの視点を内包しながら、写真館の可能性を拡張させている。この会社が、公園とどのように関わってきたのだろうか。

きっかけは、代表の酒井咲帆氏がALBUSを運営をしていくなかで浮かんだひとつ疑問だった。それは、「来場者に金銭的な負担をかけず、無償でまちの人の居場所をつくることはできないか」というもの。以前から子どもに可能性を感じていた彼女は、それが保育園なのでは?と思い至りリサーチを始める。業界の経験ゼロから保育について調べたり物件探しをするなかで、公園に隣接する物件と出会った。先に公園運営を進め、内閣府の助成制度※3を利用して保育園を設立。保育園の機能が公園に滲み出るような形で、まちに開かれた場づくりにチャレンジし始める。

ご飯も食べられるまちの写真館「ALBUS」でのイベント(ギャラリーレンタル)。

集いたくなる公園に、少しずつ変えていく。

公園運営は、どうやったら始められるのだろうか。少々ハードルが高いように感じるが、ALBUSのケースを知ると必ずしもそうではないことがわかる。酒井氏は、まず区役所※4の窓口で公園運営について相談。担当者に「若い人にやってほしいから、あなたが愛護会※5をやればいいよ」と助言を受け、申請すると古小烏公園(福岡市中央区)を運営する認定を受けた。次は、どうやったら遊びやすくなるかを想像しながら、鬱蒼としていた公園の木々を家族や友人たちとともに剪定し、空いたスペースに花を植え、色が剥がれた遊具にペンキを塗りと家族や友人単位で整備を進めていく。すると、少しずつ手伝う人が現れ、人が集うようになった。

左上から時計回りに、初期の公園、花植え、柵のペイント、いふくまち保育園から公園への通路づくり。

また、隣接する保育園は薬院伊福町(やくいんいふくまち)にある。民家が4,5軒ほどのごく小さな町だが地域住民が町名を大切に引き継いできた想いを汲み「いふくまち保育園」と命名したことは、まちの人から歓迎されるひとつのきっかけにもなった。

薬院は、九州最大の繁華街・天神の隣駅(西鉄 天神大牟田線)にも使われる地名。薬院一丁目から四丁目までと薬院伊福町、大字薬院がある。福岡市は、戦災復興土地区画整理事業によって地名が変わった町も多く存在する。©️Google マップ

何でもない願いが叶えられる場へ。

古小烏公園は、476 ㎡。他の小さな公園同様に、遊びを目的にした親子や憩いを求めるご老人などがやってくる。なかにはユニークな来訪者もおり、たとえば花を持ってきてくれる人、公園で採ったどくだみでお茶をつくり持ってきてくれる人、3メートルもあるビー玉転がしゲームを持ってきてくれる人など。節分には鬼に扮装した人が現れ、クリスマスシーズンには公園の木に毎日1つずつ手編みの靴下を吊り下げてくれる人もいる。とにかく、隣人を喜ばせたい人が集まる。ここは九州最大の繁華街・天神のほど近く。都市では隣人へ親切にすることを躊躇してしまうことがあるが、それを表現できるのはなぜだろう。

左上から時計回りに保育園から公園に出入りできる窓(扉)、公園入口の手づくり看板やおたよりコーナー・ご意見箱、子どもが遊べる小屋をつくる様子、豆まき。

「大人だと恥ずかしさや面倒臭さで行動を躊躇してしまうことも、子どもは頭で考えるより先に行動にうつしてくれます。だから子どもがそばにいるとその姿に促されるかたちで、大人たちが行動してしまっていることが多く、いろんなハードルや固定概念をとっぱらってくれている気がします」と酒井氏は教えてくれた。

また、自由に動かせる丸太のイスやおもちゃを収納できるカゴ(寄贈も可能)、ご意見箱など行動を誘発する工夫があり、公園には大らかな空気が漂っている。

禁止より、見守りを。

特徴のひとつに禁止看板がないことも挙げられる。公共空間は規制が多い印象があるが、ここではどうやったら各人が居心地のいい場所になるかを大切にしており、心が窮屈になるルールではなく心を解放するような環境づくりに注力している。そもそも年齢によって危ないことは違う。そのため、隣で保育園も運営している特徴を生かし、禁止ではなく見守りを充実させている。

また、日々安全に運営し区の担当者に信頼してもらうことで、火気厳禁とされる公園内でかまどを使って炊事をする申請も通ったという。区にクレームがきた際も何でもすぐに禁止するのではなく、利用者視点の不安なのかそうでないのかを区が判断。利用者の心情に寄り添う活動を応援してくれている。

大人と子どもが、かまどを使った炊事に挑戦した。

公園の植物から生まれるコミュニケーション。

一般的に公園の植物は個人使用NG※6だが、ここではまちの人の共有物。ご近所さんの離れの庭といってもいいかもしれない。月1で有志が花植えや草取りなど公園の手入れを行う「土の日」があり、それに参加した人は顔見知りが管理している安心が得られ、また節度を持って利用できる。なかには、公園にアサギマダラ(蝶)が飛んできてほしいと、花壇にフジバカマを植えてくれた地域の方も。つまり、公園の外部から受ける影響にも想像を膨らませ、もっと自分たちらしい場にしたいと各々が好きな場へと変えることまで行っている。また、果物が実りはじめると真っ先に子どもが見つけ、それをジャムやシロップ、梅干しなどにしてごく少量ずつではあるが近隣の人におすそ分けすることもある。このように公園とその周囲が相互に影響を与え、忘れがたいストーリーを毎日積み重ねている。

土の日(公園掃除の日)。毎回、年齢問わず多くの人が参加している。

公園の植物から受ける恩恵は区役所にも届けており、月1で義務化されている区の報告書にも子どもたちの手紙とおすそ分けの品を添えている。実は、福岡市中央区の公園は大小118カ所あるが、区の管理者はたった3名(事務担当者は除く)。すべてを隈なく把握することが難しく、よりリアルな情報を伝えてくれることで担当者はより実情に即した情報が知れると感じている。

困ったことは、大人にも園児にも相談。

では、ハード面の改修はどうしているのだろう。この場合も、地域住民とともに考えることを基本にしている。たとえば、だれもが安心して動き回れるように足元のコンクリートを剥がしたいとアイデアが出てきた際は、地域の人と議論を重ね、コンクリートを剥がし芝生を植えることが決まった。ただ、マンションのように管理費を集金しているわけでもなく、中央区から支給される年間管理費は2.8万円※7。改修のための約100万円は補助金申請で補い、まちの人の意見を公園に反映させた。

ラジオ体操をするために、老若男女がこの公園に集まる。

公園内の意見箱に「花を植えたい」という願いが投函されていた際は、園児たちに「公園にいろんな花を植えるにはどうしたらいいかな」と問いかけ、子どもたちから「花の苗を買うために、バザーを開こう!」「自分たちが作ったものを売ればいいよ!」等の意見が挙がった。公園の植物を使ったリースや入浴剤、ハーブティなどを販売。そのお金で、新しい花を植えている。同時に、子どもたちが商品づくりから販売までの一連のプロセスを学ぶことにもつながった。公共施設には、行政が気づけていない潜在的な需要がまだまだ隠れている。年齢や職業の異なるさまざまな人が話し合い、みんなにとって居心地のいい場所をつくる機運を醸成することは、とてもたくましく意義深いことではないだろうか。

公園に、花を植える資金を集めるためのバザー。

そもそもまちで暮らす一人ひとりが市民であり、公共空間もっというと都市は万人のためにある。社会は自分たちの手で変えられる。だから、自分自身がしあわせになることは決して諦めなくていい。そんな人間として当たり前の権利を、この公園は改めて思いださせてくれる。

さまざまな人が出店者やお客さんになったバザー。

1 2021年11月1日時点。総務省「衆議院議員総選挙(大選挙区・中選挙区・小選挙区)における投票率の推移」
※2 総務省「衆議院議員総選挙における年代別投票率(抽出)の推移」
※3 内閣府の企業向け助成制度である企業主導型保育事業
※4 公園によって国営、県営、市営、区営など管理は異なる。
※5 正式名称は公園愛護会。福岡市が許可する公園運営のボランティア団体。
※6 厳密な線引きは難しいが、器物損壊や窃盗に当たることも。
※7 公園の敷地面積によって異なる。2022年10月時点。


株式会社アルバス
所在地 :福岡県福岡市中央区警固2-9-14
サイト  :https://albus.in/

古小烏公園
所在地:福岡県福岡市中央区薬院伊福町11-3
サイト:https://ifukumachi.jp/park

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