ソーシャルグッドな地域資源のアイデアマガジン Local Resource News

ローカルフードサイクリング × 家庭生ゴミ

自然の循環を自分ゴト化できる仕組みを、
暮らしに身近な台所から。

要約すると…

  1. 父親のガン療養をきっかけに、環境問題に注目する。
  2. 人の暮らしと自然をブリッジさせるコンポストを研究・普及させていく。
  3. 家庭の循環だけにとどまらず、地域コミュニティと協働しながら様々なエリアでコンポストを使った循環経済をつくりあげている。

きっかけは、父親の病。

今から、25年以上前。ローカルフードサイクリング代表・平さんは、お父さんのガン宣告をきっかけに、看病のために食養生に取り組み始めます。それは、医師で薬剤師だった石塚左玄が提唱した食養生を起源にした玄米菜食で、無農薬にこだわった食事。大学で専攻した栄養学を生かしながら、食について徹底的に考え抜いた平さんはあることに気づきます。

「食を変えたことで、3ヶ月しか持たないといわれた父の顔色がどんどん良くなって、うれしかったですね。2年延命してくれて、“食が命”ということが改めてわかりました。ただ食養生を始めた初日から困ったことがありました。それは、福岡市内を自転車で2時間かけて探しても、安全な野菜が見つからないこと。本当に仲がいい父だったので少しでも長生きして欲しくて、高い野菜を買ったり、みずから野菜を育てたり、高価な浄水器を買ったり…。私自身も外食が怖くなり、少しノイローゼ気味になることもありました。生まれたばかりの娘の将来を考えると、非常に不安になりましたね」

暮らしの資源について、学び始める。

平さんは、看病中に生まれた疑問“暮らしの資源”について、独学で学び始めます。それは、46億年前の地球に溯るほどの徹底ぶり。注目したのは、これまでの植物も生物も土に戻り、地球に栄養を還元していたこと。それが、山から海、空へと循環することで生態系が保たれて、人間が農耕や狩猟ができていたことに改めて気づきます。

 

<農業の自然循環機能のイメージ>

出典:農林水産省

 

「今は、ゴミも排泄物も出したら終わり。電気もガスも、スイッチをひとつでパッとつく。ゴミも排泄物も土に戻してないし、燃料が少なくなると山に芝刈りにということにはならなくて。生活の先に何があるか見えなくて、自然と分断されています。私たちが、地球から食べ物や水を搾取して、ごはんをつくってトイレに行って水を汚して、ゴミを出して…、生きていることは環境を汚すことなんだと思いました」

そして、人間がこんな暮らしをしていたので、自然の調整機能が下がり気候変動が起きていることもわかったといいます。

 

<生態系サービスが人間にもたらす福利の関係>

ミレニアム生態系評価報告書を参考に作成。ミレニアム生態系評価報告書とは、国連の主唱により2001年から2005年にかけて行われた、地球規模での生物多様性及び生態系の保全と持続可能な利用に関する科学的な総合評価の取り組みのこと。

 

土(土壌養分)に注目した活動をスタート。

人間と自然が分断されていることに問題を感じた平さんは、そのふたつをブリッジしてくれるものを探し始めます。田んぼや畑に挑戦するも毎日気軽に行ける距離ではなく続けることが難しいと悩んでいた最中、目に留まったのは母親が長年続けていた堆肥づくりでした。

「母は、農家の長女として生まれてライフワークのように堆肥づくりをしています。その野菜が、ホントにおいしいんですよね。生ゴミがすごくいい栄養になって、化学肥料いらずで。『これだ!』と思いました。同時に、私もスーパーできれいな野菜を選んで買って、環境に負荷を与えていることに気づきました。生ゴミで堆肥づくりをすることで、自分自身の暮らしと自然のつながりが感じられ、採取した資源も土に戻せると思いましたね」

平さんは母親を誘って、都市でも気軽に実践できるコンポスト(堆肥づくり)の研究を1997年から始めます。すると、O157やダイオキシン、環境ホルモンなどから食品に不安を抱えていた人が多かった時代背景が後押しとなり、予想を上回るほどのニーズに。2005年には、事業の50%を人材育成に切り替えるほどの成長をみせます。

 

<食品に関する主な事件・事故>  

参考:厚生労働白書(2016)

マンションでも使いやすい、都市型コンポスト。

ローカルフードサイクリングでは、6RのなかのRethinkを大切にしていてコンポストを“人の意識を変えるための装置”と位置づけ。そのため、都市でも使いやすいことを大きな指針に、製品・サービスづくりをしています。

2020年1月から発売されたLFCコンポストは暮らしになじみやすいバック型で、生地はだぶついた国内のペットボトルを使用。20年以上のノウハウを生かし悪臭や虫が発生しにくいものにしたり、堆肥ができた後にプランターとして活用できる形状のコンポストにしたり、土と種をセットにして野菜を育てるキットにしたり、野菜のレシピを紹介したり、見た目や原料だけでなくリアルな使用感にもこだわった商品に仕上げています。

また、自宅で野菜を育てない人のために都内で堆肥を回収したり、契約農家に堆肥を渡して3ヶ月後に野菜が送られてくるなど、様々な暮らしを想定し細部まで行き届いたサービスも。その結果、政令指定都市をメインにほぼ全都道府県に愛用者がいるといます。

2020年は、コロナウイルスの影響で環境への意識が高まったこともあり、224t分の生ゴミが焼却されることを回避。10万世帯が13.5時間エアコンを使わなかった量に匹敵するCO2削減に貢献しました。

※焼却処分に伴う回収の経費(ガソリン代、人件費等)の節約や生ごみを捨てるためのビニール袋の削減等は除く。

 

<コンポストの使い方(LFCの場合)>

 

「誰でも使いやすいことを目指し、熟練者や初心者などいろんな人にモニタリングを行っています。全国に約200人のリーダーがいて、環境貢献度や使用感など様々な視点で意見をもらっていますね。何かあればすぐ話し合える体制を整えていて、2020年に発売した商品は半年で20回ほど改良しました。それから、LINEで気軽に相談できるようにしているんですが、本当に多様な質問があります。『なんで虫が出るんですか?』のような質問に、『虫は、循環型の構成要因です』というと『な〜んだ〜』と虫への見方が変わった人もいました。とにかく、気軽で、楽しく安心して循環できるお手伝いを日々考えています」

最近では、コロナ禍でベランダ菜園の機運が高まったフランスでの取り扱いや、川崎市と協働しているフードサイクルプログラム「eco-wa-ring(エコワリング)」が始まり、ますますネットワークが広がっているそう。

 

LFCコンポストセット PARIS エディション。ヨーロッパでは、ゼロ・プラスチックがスタンダードになりつつあることから、商品の梱包材はプラスチック不使用、100%再生紙・リサイクル可能素材を使用している。

 

半径2km圏の循環経済づくりを、次々と。

また、家庭内の循環だけにとどまらず、半径2km圏内でコンポストを中心にした循環型エリアづくりも着々と進めています。それは、台所から出た生ゴミをコンポストで堆肥にして、燃料なし・排気ガスなしのベロタクシーで回収。その堆肥を使ってコミュニティガーデンで野菜をつくり、会員にプレゼントしたり、マーケットで販売することで栄養を循環させるもの。

なぜ半径2km?と思うかもしれませんが、これは平さん自身が看病をしていた時に人の優しさや自然の美しさなどを自分ゴトとして感じられた距離。後々調べていくと、中学生の行動範囲、自転車で回れる範囲、デイケアセンターの送迎範囲、ニホンミツバチの行動範囲でもあり自分ゴトとして考えやすい距離だったといいます。

 

<コミュニティコンポスト>

<LFCの栄養サイクル>

「最初にコミュニティコンポストを始めたのは、福岡市東区にある“アイランドシティ照葉”です。2019年時点で、このエリアのコンポスト会員は約150世帯にまで増えていて、マンションの上から野菜畑が見えるのは圧巻ですよ。高齢化率が高い美和台(福岡市)では社会福祉協議会と連携して、100軒ほど(2019年時点)コンポストを設置させてもらいました。お手入れのために2週間に1度お宅訪問しているですが、行くたびにみんな仲良くなって。梅ジュースをもらったり、電球を直したり。今は薄れてしまった地域共同体のような関係が築かれています。在来種の種を使った農業が、地域共同体をつくっていた歴史もありますし、土とコミュニティの親和性を感じますね。コンポストをきっかけに、地域の解決しづらかった問題が解決できているのはうれしいです」

今では、九州最大の繁華街天神で、ショップ・企業・ホテル・保育園などの屋上にコンポストを設置して、月に2回若者とコンポストや菜園の手入れを行なっています。そうすることで、次世代も気軽に触れる機会を増やしているそう。循環社会へ強い想いをもつ平さんですが、活動のモットーは楽しいこと。そのスタンスは、若者たちにも伝わっており、自走する流れが生まれているといいます。

 

大きな社会システムの違和感から生まれた半径2km圏の循環経済。街にタッチポイントを増やして、「こんな生活をしたら楽しいよ」と気のおけない友達に話すような気軽さで多くの人と実践してきたからこそ、平さんの活動は共感されるのではないでしょうか。現在のペースでCO2を排出し続ける場合、2030年に1.5℃以上の気温上昇が起こると危惧されている今、LFCコンポストにますます注目が集まりそうです。

※ Climate Action Tracker, “2100 Warming Projections”(2018年版)より

 

コラム: 堆肥と肥料の違いとは?

目的 内容
堆肥 土の栄養 生ごみや下水汚泥などを微生物の働きを活用して、発酵腐熟させたもの。土全体の通気性や保水性がよくなり、柔らかく植物が育ちやすい土壌にする特徴がある。
肥料 植物を育てるための栄養 有機肥料:油粕・魚粉・鶏糞など植物性、動物性の有機物が原料。即効性が低く、持続性が高い特徴がある。
化学肥料:鉱物などの無機物が原料。即効性が高く、持続性が低い特徴がある。

化学肥料は大量に入手できるうえ即効性がありますが、土の中の微生物を減らしてしまいます。その結果、有害な菌が繁殖しやすくなり、病害になることも。その際、農薬を使うとさらに微生物が減り、作物が育たなくなる「土が死んだ」状態を招くこともあります。

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