ちよだ製作所×廃棄うどん
名物グルメで、
環境問題に挑む。
うどんの魅力で電気をつくる。
うどんの生産量が日本一で、県内のいたるところに“うどん愛”があふれる香川県。たとえば、入試問題にうどんを絡めたり、うどんパスポートをつくったり、うどん県と宣言したり…。なかでも注目したいのが、うどん店にも環境にも優しい「うどん発電」。ちょっと難しい再生可能エネルギー※に“うどん”という親しみやすい要素が加わることで、子供も大人も興味がわき、ご縁がどんどん広がっていく流れはあらゆる社会問題の解決のヒントになりそうです。いままで、お金をかけて焼却処分されていた廃棄うどんが、エネルギーに変わるまでのコシの強いストーリーをどうぞご堪能ください。
※太陽光や太陽熱、水力、風力、バイオマス、地熱など、比較的短期的に再生できる枯渇しないエネルギー
きっかけは、つくったののない機械の発注。
はじまりは、2004年。高松市にある産業機械メーカー・ちよだ製作所がメタン発酵プラントの依頼を受けたことがきっかけです。ここの社長が、メタン発酵をおもしろがり、ノウハウはなかったものの事業化することを即決。ドイツ企業からレクチャーを受け、当時はめずらしい純国産のメタン発酵プラントの製造・販売をめざし、テスト運転をスタートします。
メタン発酵のユニークなところ
- メタン菌の発酵のチカラで、食品廃棄物からバイオガスを取り出せる。
- バイオガスは、発電や自動車燃料として利用できる。
- 廃棄物を燃やさず処理できるので、地球に優しい。
発酵の研究者から、予想外の依頼。
このとき産業技術総合研究所四国センター(香川県)には、うどんからバイオエタノールをつくる酵母の開発に試験管レベルで成功し、実用化したいと考えている人がいました。再生可能エネルギーに取り組む企業が四国にほとんどいない状況のなか、人づてにちよだ製作所を紹介され「発酵違いではあるものの、実用化に向けて協力してほしい」と言われたそう。新しいことが好きなちよだ製作所は、すぐに協働することに決めます。それから2年、産業技術総合研究所四国センター、ちよだ製作所、そして香川県産業技術センター食品研究所がひとつのチームとなり、うどんの研究を始めました。
バイオマスとバイオマス発電とは?
● バイオマス
動植物といった生物からつくり出される有機性のエネルギー資源。
廃棄系バイオマス 廃棄される紙、家畜の糞尿、食品廃棄物、建築発生木材や下水汚泥など 未利用バイオマス 稲わら、麦わら、もみ殼など 資源作物 サトウキビ、トウモロコシなど ● バイオマス発電
バイオマスを焼却したりガス化したりすることで、発電する。
直接燃焼方式 燃料は、木くずや可燃ゴミ、精製した廃油など。それを直接焼却して、蒸気タービンを回転させます。 熱分解ガス化方式 燃料は、木くずや可燃ゴミなど。直接燃焼させるのではなく、加熱して発生させたガスでガスタービンを回転させます。 生物化学的ガス化方式 燃料は、家畜の糞尿や生ゴミなど。それを、発酵させることでバイオガスを発生させて、ガスタービンを回転させます。
バイオエタノールについて
- サトウキビやトウモロコシなどの植物を発酵・蒸留させてつくるアルコール燃料。
- バイオガスは、発電や自動車燃料として利用できる。
- トウモロコシのデンプンを利用して生産されることが多い燃料。穀物を利用し続けると食糧危機を招く可能があり、他の原料を探す動きがある。
この取り組みは1年目からうまくいき、規模を大きくした2年目はうどん200kgから100Lを処理できるまでに。一方で問題となっていたのが、バイオエタノールをつくった後の廃液。実は、90%が廃液で濃度が高く河川に流せない。しかも、できあがったバイオエタノールは燃費が悪い。それを解決するために、エタノール発酵装置にメタン発酵装置をつけ2段発酵することで、非常に効率のいい仕組みにたどりつきます。この時期はちょうどバイオエタノールが流行っており、テレビや新聞の取材が増えたといいます。
うどんはバイオガスが出やすい!?
- バイオガスが出やすいものは、消化しやすくカロリーが高いもの。
○うどん ×もやし、ネギ- うどんの主成分はデンプンなので、糖になりやすく効率がいい。
- うどんは、木材や植物などのバイオマスと比べて、前処理が少なく無駄がない。
うどんがつなぐ、人の縁。
その記事を読んだ人には、長年うどん店をメインに飲食店をめぐり、割り箸から再生紙をつくるエコ活動をされている方もおり、「廃棄うどんも、エネルギーになるのではないか」と提案を受けます 。当時、うどん店では茹でた後に時間が経ちコシがなくなったうどんを当たり前のように廃棄しており、関係者もあまり問題視していませんでした。そこに、環境へ意識が高い人が入ることで、廃棄うどんの問題が浮き彫りにされました。
これを受け、2012年からは地元の製麺業者、環境団体、高松市、学識者やボランティアの方々と共に「うどんまるごと循環プロジェクト」を発足します。めざすのは、廃棄うどんからエネルギーをつくり、そのエネルギーで沸かしたお湯でうどんをつくる、つまり”うどんからうどんをつくる”という前代未聞の挑戦でした。同年7月からは再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタート。再生エネルギーの受け皿ができたことで、全国からの見学者も大幅に増加しました。翌年「うどん発電」と命名すると、うどん県宣言の影響もあり、マスコミの取材がさらに増加します。また、以前は肥料として使っていた廃液を、うどんの材料となる小麦やネギのために使うことで、文字通り“うどんがまるごと循環する”システムが完成しました。
うどんまるごと循環プロジェクト
各地に広がる、ご当地エネルギー。
見学には、県内の小中学校から国内外の導入を検討する方々とさまざまで、県内の人は「こんな近くにすごく最先端のものがあるとは驚いた」と言われたそう。また、うどん以外のご当地ラーメンやご当地メニュー、生ゴミなどでもバイオガスをつくることができます。そのため、見学に来た千葉県佐倉市、沖縄県宮古島市、徳島県上勝町、岡山県真庭市などでもメタン発酵プラントを導入し、それぞれの土地で再生可能エネルギーづくりに取り組んでいます。ただ、バイオマス発電プラントの設置許可には、経済産業局、産業保安監督部、電力会社などあらゆる申請が必要で、認可まで非常に時間がかかるといいます。
中小企業こそ、バイオマス発電を。
現在、生ゴミは年間で1,800万t。そのうち1,100万tが無駄になっています。そのため、ちよだ製作所では「全国的にもっとメタン発酵プラントを使っていってほしい」という強い想いをもっています。一方、40人弱という企業規模でさまざまな大型機械の製作にも取り組んでいるため、北海道や東北など遠方の依頼は断っているという現状も。少しでも早くメタン発酵を広めるために、ちよだ製作所ではメタン発酵プラント※の特許は取らず、ノウハウを開示。希望があればレクチャーも行っています。その原点は「中小企業こそバイオマス発電をやるべき」という考え。採算性が合わないといわれるバイオマス発電ですが、ネックとなっているのは大企業の大規模な機械を満たすための回収コスト。それぞれが小型のメタン発酵プラントをゴミの発生源に置くことで、一気に解消されるのだといいます。地域の特色を生かしたキャッチーな事業は、地域の知恵と技術を集結させ、その地域に足を運ぶ人を増やし、日本のエネルギーをよりよい方向へ導いています。
※現在、ちよだ製作所ではより高い効率性を求め、メタン発酵のみのプラントでバイオマス発電を提案しています。