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サーキュラー コットン ファクトリー × 繊維ゴミ

リサイクル率に着目して生まれた
繊維to紙の循環型システム。

ファッションに“シーズン”という賞味期限をつけ、大量生産が当たり前となって100年以上。近年は過剰供給が急増しており、2019年の日本では28億4600万点のアパレル商品のうち、国民の総消費量は半分以下の13億730万点に留まっています。このうち98%が輸入品で、国内生産はたったの2%※1。わざわざ輸入しているにも関わらずゴミとなる直線的な流れを断ち切るべく、繊維の廃棄物から紙をつくる循環づくりをスタートさせた「サーキュラーコットンファクトリー」の渡邊智恵子さんと平野裕加里さんにお話を伺いました。


アパレル業界に対する世界的な評価とは?

サプライチェーン全体で環境負荷が高く、厳しい目を向けられるアパレル業界。低価格で次々と新しい商品を提案するファストファッションの台頭もあり、マッキンゼーの報告書「The State of Fashion Report(ファッションの現状)2019年」では平均的な人の衣料品購入数は15年前よりも60%増加した一方で手元に置いておく期間は半分になったというデータが発表されています。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)ではファッション業界が「世界2位の環境汚染産業」という不名誉な形容も。ファッション業界は、すぐにでも使い捨て型に終止符を打つことが迫られています。

この問題に世界初のアクションで向き合うのが、渡邊さんが代表理事を務めるサーキュラーコットンファクトリー(以下、CCF)。注目したのは繊維のリサイクル率が17.5%に対し、紙はその4倍近くリサイクル率が高いことでした。そこで、繊維の廃棄から紙の生産・消費などあらゆる立場の方々をパートナー会員に募り、繊維ゴミを紙に再生させるまったく新しい循環システムを社会に実装させていく取り組みを始めています

CCF(2021年9月13日)のプレスリリースをもとに、グラフを作成。

オーガニックコットン屋から、紙屋へ。

このユニークな発想は、すべて渡邊さんの経験から生まれています。彼女は30年以上前から日本でオーガニックコットン市場の拡大・拡充に尽力しており、活動のなかで脱脂綿をつくる工場を訪れたことがありました。その際に、廊下に裁断クズが山積みになっていることを目の当たりにし「もったいない」との想いから、紙の専門商社TAKEOに相談。和紙風の質感と印刷適性をもつ嵩高紙「わたがみ」を教えてもらったことをきっかけに、繊維の廃棄物を木材パルプと混ぜて紙をつくる試みを始め、社内のカタログ・便箋・封筒などとして長年使用してきました。

『私は、1990年から日本オーガニックコットンの啓蒙普及活動を行なってきました。綿花栽培、紡績、織布、縫製など川上から川下まで繊維業界の約150社の方々に「みんなできれいな地球を子供たちに残していきましょうよ」という想いでオーガニックコットンの啓蒙普及と認証機関としての活動に力を注いできました。これからはその経験を生かし「世界の繊維を、ゴミではなく資源にする」という目標に向かって、繊維の回収から紙の生産、そして消費までみなさんと共に需要と供給のバランスをとりながら邁進していこうと考えています。現状では繊維のゴミがこんなにあると知らなかったという方もいらっしゃるのでまずは知っていただき、最終的に繊維ゴミだけでなく大量生産・大量消費の意識を変え、みなさんと知恵を出し合いながら「地球の大掃除」を行ってまいります』(渡邊さん)

カーボンフットプリントにも配慮して進められるCCFの循環システム。繊維の回収では、生活者も気軽に参加できるような場所を想定している。

製紙メーカーは数社協力企業があり、印刷適性を重視したうえで50%まで増やすことに成功。さらに、因州和紙製造メーカーや土佐和紙製造メーカーでは、繊維の廃棄物が70%のサーキュラーコットンペーパー(以下CCP)が誕生しています。これまでも廃棄物を混合した紙は存在したものの配合率は高くても30%。このことからもプロジェクトにかける渡邊さんたちの情熱が感じられます。

左はパウダー状になった繊維と木材パルプを撹拌する様子。右はロール紙。

2ヶ月弱で、パートナー会員は50以上に。

運営は代表理事を務める渡邊さんのほか、PR担当の平野裕加里さん、さらに日本を代表するアパレル・デザイン業界の方々が参画。2021年9月9日の記者発表会には、紙を使う側の日本郵政の増田寬也社長、1シーズンではなく長く着続けるような服をつくりつづけるミナ ペルホネンの皆川明デザイナーらも登壇し、CCFに対する大きな期待を述べています。

「記者発表から2ヶ月弱で日本郵便、印刷会社、文具メーカー、菓子メーカー、建築事務所、病院、個人の方など50以上もの幅広い業種の方々がパートナーとして参加してくださっています。素材を提供してくださるアパレル関連では、サザビーリーグさま、シンゾーンさま、タキヒヨーさまなどがいらっしゃいます。短期間で、これだけパートナー企業が増えていることを考えると、いかにこの取り組みをみなさんが興味を持って、希望を持ってくださっているか実感しています。まさに、一気呵成です」(平野さん)

2021年9月9日、記者発表のメンバー。 左からグラフィックデザイナーの福島治さん、hap 鈴木素社長、45R-J 中島正樹代表、渡邊智恵子さん、日本郵政 増田寬也社長、榮太樓總本鋪 細田将己副社長、ファッションジャーナリストの生駒芳子さん、新渡戸文化中学高等学校教諭兼統括校長補佐 山藤旅聞さん。

多様な企業・人が参加できるフレームで、100の事例をつくる。

最初のアクションとして、綿製品を中心とした廃棄物から紙をつくり活用する「100 project」をスタート。パートナー会員とともにアイデアを出し合い、使用事例が100件に到達した時点で、書籍の発行を目指しています。

<CCP活用の具体的なアイデア>
・着なくなった洋服と、使い終わった教科書でつくる手漉き和紙で、卒業証書を作成する。
・子供たちが未来の地球へ向けて書くハガキづくり。
・障害者の方々が製造する「QUON CHOCOLATE(久遠チョコレート)」のパンフレットやパッケージに。

CCPの活用例。

10月末からは東京新聞本社ロビーでの展示やパートナー会員によるハンカチ回収キャンペーン、渋谷COP2021での大学生を交えたトークセッション、名古屋・大阪・今治・岡山での説明会など精力的に活動内容を伝えています。また、このプロジェクトではある程度の量を回収できるエリアがあれば、原料・粉砕・製紙などのトレーサビリティを開示することを計画中。さまざまな地域産の紙が次々と生まれることで、より多くの人が廃棄物を自分ごと化することにつながっていくことが考えられます。あらゆる立場の人に網羅的にアプローチすることで、スピード感を持って日本にこの文化が根付くことを狙っています。

パートナー会員・ブルーミング中西が、横浜高島屋で行った繊維ゴミが紙になる工程を伝える展示とハンカチの回収キャンペーン。

おなじ目標を持つコミュニティづくりによって、トップダウンではなくボトムアップの取り組みを行うCCF。現代の消費のあり方をみんなでワクワクしながら考えていく活動は、幸福までも循環させてしまうようなことをイメージしてしまいます。繊維と紙という生きるうえで無視できない素材を通じた活動は、これから大きな広がりを見せ、日本式の循環システムとして海外でも共感されるであろうと思わずにはいられません。

 

CCFメンバー
渡邊智恵子/福島治(グラフィックデザイナー)/鈴木素 (hap 株式会社 代表取締役社長)/中島正樹(45R-J 株式会社 代表取締役)/内海清司(アパレルメーカー経営のプロフェッショナル)/平野裕加里(有限会社LIBRA代表)(敬称略)

パートナー会員
日本郵便株式会社/建築士事務所 Atelier Bio(アトリエビオ)/株式会社 アバンティ/岩浅有記/株式会社 榮太樓總本鋪/株式会社 大川印刷/オメガクリエイティブデザイン株式会社/統合医療 希望クリニック/株式会社 桑原/QUON CHOCOLATE(久遠チョコレート)/株式会社 GUNSHI コーポレーション/株式会社サザビーリーグ/株式会社 三景/一般社団法人次世代 SMILE 協会/新生紙パルプ商事 株式会社/株式会社 シンゾーン/有限会社 龍村仁事務所/株式会社 ツカモトコーポレーション/株式会社 浜松白洋舎/株式会社 はたらクリエイト/hap 株式会社/5’st 一級建築士事務所/株式会社サガシキ/株式会社石見銀山/株式会社レイメイ/株式会社セブンユニフォーム/株式会社ブルー ほか(敬称略)※年会費6万円

※1 小島ファッションマーケティングより


一般社団法人サーキュラー コットン ファクトリー
所在地    :東京都目黒区目黒1ー1ー16目黒台マンションC308
URL        :http://circularcottonfactory.jp

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