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FERMENSTATION × 休耕田

発酵というミクロの視点から、
マクロの循環をつくる。

リーマンショックをひとつの契機に、資源不足等に対応できるようEU加盟国が官民一体となって進めたことで、世界中に広がってきたサーキュラーエコノミー(循環型経済)。いま、ナイキやアディダス、ユニリーバなどのグローバル企業も本格的に取り組んでおり、アクセンチュアの調査によると2030 年までに4兆5000億ドルもの利益が出ると予測されています※1。今回、発酵技術をベースに未利用資源を活用し、廃棄物を一切出さない循環に挑戦する「ファーメンステーション」の酒井里奈さんにお話を伺いました。


きっかけは、好奇心。

ファーメンステーションが実践しているのは、独自の発酵技術で未利用資源を有効活用する循環づくり。それは、鎖国を背景にほぼすべての物資やエネルギーを国内の植物資源に頼り、灰ですら畑の土壌改善や日本酒の加工、陶磁器の釉薬、石鹸や染料などに活用した江戸時代の循環システムに匹敵するほどの徹底ぶりです。

そんな循環システムは、酒井さんの好奇心と岩手県奥州市の地域力が出会ったことから生まれています。酒井さんは、もともとバイオエタノールとはほぼ無縁の金融業界で働いていました。たまたまテレビで見た、生ゴミをバイオエネルギーに変える発酵技術に魅力を感じ、東京農業大学の醸造科学科に32歳で入学。在学中は国がバイオマスタウン構想を掲げていたタイミングだったこともあり、技術的なパートナーを探していた岩手県奥州市(当時は胆沢町)の方々と出会い、2010年から実証実験が始まります。

日本における農村の原風景といわれる散居集落がある岩手県奥州市。

無農薬米から始まる、循環システム。

バイオマスタウン構想では、まちの風景をつくっていくようなマクロの視点が必要でした。そのため、すべてが無駄なくいずれ土や生き物へと還っていくような商品づくりが重要だと考えており、その源流ともいえる米は無農薬にこだわっています。

「もともとの構想は米の消費量が減って農家さんも減っていたので、米農家の方が別の収入を生み出す手段。そして、米からエタノールをつくる途中に米もろみ粕が出てくるので、奥州市の畜産にプラスとなるような餌をつくれるのではないかというところからスタートしています。当時、バイオ燃料がブームになっていたこともありガソリンの代替品に挑戦しましたが採算が合わず、化粧品原料に変更しました。実証実験の段階から地域のお仲間と連携しながらやっていたので、近隣の養鶏農家さんに餌として使ってもらって実験を回すことができましたね。さまざまな方が関わりながら大きな循環をつくるのは、市役所の方や地域のみなさんの意向です。私は東京から毎週通って毎日電話をしてと密にコミュニケーションをとっていて、そのなかでアイデアが出てやりながら考えることを繰り返していきました」(酒井さん)

ファーメンステーションと地域の人がつくる循環。米もろみ粕は、飼料としての有効性も考えて製造。発酵食品を食べる家畜の腸内は良好で、卵は人気商品となり、糞は悪臭がなく良質な肥料として知られている。

休耕田の有効活用ではありますが、この循環で米農家が担当するのは食卓に上がることのない無農薬米をつくること。当初、酒井さんは人が食べないものをつくってもらうことを心配していましたが、10年以上続けて1度も不満を聞いたことはないといいます。というのは、それどころではないくらい消費量が激減していたという背景から。米以外の作物に挑戦するにも新しい機械や技術が必要で、つくり慣れている米で収入を上げることの方が大切だったといいます。同時に、日本三大散居集落※2といわれる美しい景色も守っていきたいというまちの人の強い想いもありました。いまではファーメンステーションの事業共創パートナーや消費者が原材料の米に興味を持ち、食用米の売り上げが大幅に伸びています。

(左)農林水産省「農林業センサス/耕作放棄地面積の農家等の区分別割合の推移」 をもとにグラフを作成 https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h18_h/trend/1/t1_2_2_03.html (最終閲覧 2022/2/6)(右)食料需給表「食料需給表」をもとにグラフを作成 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/zyukyu/index.html (最終閲覧 2022/2/6)

原料の米が注目された理由は、オリジナルブランドのクリーンなイメージと高い効能からだと考えられます。商品の主原料は、無農薬米を蒸留・精製したエタノールと、それをつくる際に出てきた米もろみ粕です。実は、エタノールは石油由来が多く、植物由来であっても製造工程までわかるエタノールは世界的にめずらしい。そんななかトレーサビリティがはっきりしており、さらに世界的な認証制度であるUSDA(アメリカ合衆国農務省)のオーガニック認証を取得。また、米もろみ粕に関しては、ヒアルロン酸保持効果・抗酸化作用・抗老化作用があるというデータが出ており、いずれも高付加価値化に成功。商品づくりの副次的な作用として、ファーメンステーションは地域資源に光を当てる名プロデューサーの役割も果たしています。

常に、私たちらしい選択肢を考える。

このような独自性のある商品は、固定概念にとらわれずゼロベースからつくりあげています。それは酒井さんが異業種から事業を立ち上げたことがプラスに働き、「未利用資源を魅力的に変えたい」という酒井さんの想いが根底にあるからでしょう。商品は自分自身が本当に欲しくて、お客様にも満足してらもらえるものというシンプルな基準のもと発案。それを実現するために、だれとつくるのがいいのか、どんな原料がいいか、機能を最大限に引き出すブレンドはどうしたらいいかなどファーメンステーションらしい方法を模索しながら開発しています。製造工程では捨てるものがないよう工夫し、包装でも環境負荷を考慮し、水はできるだけ減らせるような工程を考え、電力は東北圏内の代替エネルギーを使用。すべてにおいて、事業全体の価値を損なわない選択を繰り返しています。

PRや事業共創を通じて、ともに学び合う。

PRもユニークで、国内外から取材や視察が増えてきた2012年に、体験ツアーやワークショップなどを行う団体「マイムマイム奥州」をまちの人とともに立ち上げています。この活動は来訪者だけでなく現地の人にもメリットが多く、来訪者によって国内外の情報を知れ、対外的な評価をリアルに感じることで自信につながっています。さらに、将来まちを担っていくであろう地元のこどもたちが地域や環境について学ぶ機会も創出しています。

いまでは、岩手以外の企業とも事業共創を行なっており、糖質を含む未利用資源からエタノールをつくり化粧品や日用雑貨など価値あるものに変える活動の伴走をしています。これまでの事例は、試食ごはん・流通しにくい葡萄や桃・コーヒー粕・規格外の飴など。目に見える商品になることで企業の環境活動が伝えやすくなり、エンドユーザーに「日常生活で環境やサステナビリティ、地域に目を向けるようになりました」と感想をもらった企業もあるほどイメージ向上に貢献しています。

アサヒグループとJR東日本グループが青森でりんご酒を醸造しており、その際に発生するりんごの搾り残さを活用。リンゴエタノールを配合した天然由来成分99%の除菌ウエットティッシュを完成させている。

食の未利用資源を有効活用する際、肥料以外はなかなか突破口が見つからなかったなか、だれもが参加しやすい別の選択肢を提案したことはとても驚きがあります。特に、湿気が多く腐敗しやすい背景から日本が得意とする発酵技術を生かしたことは、非常に説得力のあるサーキュラーモデルとして世界に受け入れられることが大いに期待できるのではないでしょうか。

また、イギリスの起業家ジョン・エルキントンは、企業が持続可能な経営を行う上で欠かせない理念に「3つのP」を提唱しています。それはprofit(経済的利益)、planet(地球環境)、People(人々の幸福度)。経営的利益、地球環境についての視点はもちろんですが、酒井さんは協働する人たちを「仲間」と呼んでおり、関わる人々の幸福度をとても大切にしていることが企業経営の持続性、そして大きな広がりへとつながっているのでしょう。

※1アクセンチュア「サーキュラー・エコノミー:再生の循環による新成長戦略」https://www.accenture.com/jp-ja/services/strategy/circular-economy (最終閲覧 2022/2/6)
※2 散居とは、田んぼや畑のなかに家屋が離れて建つ集落のことで、日本の農村の原風景と考えられている。岩手県・丹沢平野、富山県・砺波平野、島根県・出雲平野が日本三大散居集落といわれている。


株式会社ファーメンステーション
本社所在地:東京都墨田区横川1-16-3 センターオブガレージ Room 04
奥州ラボ :岩手県奥州市江刺岩谷堂下苗代沢573
URL       :https://fermenstation.co.jp/
ECサイト  :https://www.fermenstation.jp/

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