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菱華産業 × 木製バットの廃材

野球バットの廃材から生まれた
プラスチック代替品。

2022年4月、プラスチックごみの削減とリサイクル促進を目的としたプラスチック資源循環法※1が施行されます。これは製造から販売、排出、回収までとあらゆる面で企業にプラスチック削減と循環を求めているため、いままで以上に幅広い企業がその取り扱いを見直さざる得ない状況になっています。今回、バット製造時の木粉からプラスチック代替品をつくる「菱華産業」の荒木浩二さん、都地盛幸さんにお話を伺いました。


プラスチック資源循環法とは?
海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、中国や東南アジア・南西アジア諸国の廃プラ輸入規制などから、プラスチック資源の削減と循環を検討する機運が高まっています。日本では、2022年4月からプラスチック資源循環法※1が施行予定となっており、製造業にはプラスチックごみの抑制やそのための設計を、小売・サービス業などにはワンウェイプラスチックの使用合理化を。そして、市町村にはプラスチック廃棄物の分別収集と再資源化、製造・販売事業者には自主回収と再資源化、排出事業者には排出抑制と再資源化などが求められるようになります。

世界でも、2016年にフランスが使い捨てのプラスチック製レジ袋を禁止したことを皮切りにプラスチック製品に関するルール化が加速。また、欧州特許庁(EPO)が2021年に発表した報告書によると「リサイクルがより容易な新たなプラスチック設計」に関する特許出願数は2010年以降、毎年約10%ずつ増加している※2といわれており、プラスチックによる環境負荷の軽減が世界的な関心になっています。

<ワンウェイプラスチックの使用合理化について>

対象事業者 ・小売業(百貨店・スーパー・コンビニなど)
・宿泊業(ホテル・旅館など)
・飲食店(レストラン・居酒屋など)
・持ち帰り・配達飲食サービス業(フードデリバリーなど)
・洗濯業(クリーニング店など)
削減義務12品目 フォーク・スプーン・ナイフ・マドラー・ストロー・ヘアブラシ・くし・カミソリ・シャワー用キャップ・歯ブラシ・ハンガー・衣類用カバー
求められる対策 特定プラスチックの有償化、ポイント還元、意思確認、再利用などで使用量の削減

 

未利用資源、協業企業、公募。3つの出会いが重なる。
そんななか、菱華産業ではプラスチックの特性を持つサステナブル素材の開発に成功。原料の51%以上が、プロもつかう野球バットを仕上げる際に出てくる木粉です。というのは、スポーツ用品メーカーが月7トンほど排出する木粉の有効活用を模索していたタイミングで、近隣の樹脂メーカーと菱華産業が木粉プラスチックの開発に取り組むことが決まり、3社が出会います。

さらに、都地さんが偶然「プラスチック代替素材を活用した開発・普及プロジェクト/地球にやさしい食器づくり」の公募(主催:東京都立産業技術研究センター)を目にします。木粉をつかった生分解性プラスチックのアイデアを応募したところ審査員に高く評価され、数多くの応募のなかから採択されることとなりました。

世界最薄ともいわれる0.7mmの木粉プラスチックに成功。
製品をつくり始めてみると、目には細かく見える木粉のサイズが大きな壁となります。今回の木粉プラスチックは、菱華産業が40年ほどのノウハウをもつ石油プラスチックと同じ方法で成形。1〜2mmの小さな穴から原料(樹脂)を注入し、金型の全域に行き渡らせる方法ですが、木粉が金型のなかをスムーズに流れてくれませんでした。

そこで、木が炭にならずに分解される温度を研究。ようやく樹脂が金型をスムーズに流れるようになりますが、熱を加えたことでライトブラウンからダークブラウンに変化し、メイプルシロップのような甘い香りが出てきます。色はカラーバリエーションとしてそのまま採用しましたが、ニオイに関してはテーマが食器ということもあり無臭になるよう約1年かけて改善していきました。

最終的にニオイがなく、世界最薄ともいわれる0.7mmの木粉プラスチックづくりに成功。植物由来成分が73.3%というサステナブル素材に仕上がり、「MIRAI WOOD」と名付けました。これは、0.3mmにプラスチックを成形できる技術力をもつ菱華産業だからこそ、つくり上げることができた商品といえます。

木粉は、メープルとメープルとホワイトアッシュ。木材によって、流動性や硬質なども変わってくる。

「実は、木粉プラスチックというのは以前から世の中にありました。ところが、10〜20%の木粉と石油由来のポリプロピレン(PP樹脂)を混ぜ合わせたものだったんですね。今回、我々が成功したのは51%以上の木粉と、とうもろこしが主原料の生分解性樹脂を複合材でコンパウンドした73.3%が植物由来のサステナブル素材です。半分以上が木粉なので、成型品でありながら木製品として扱うこともできます。石油の使用量を大幅に削減できたので、CO2削減にもつながるものに仕上がりました」(荒木さん)

素材の完成後、国内外でさまざまな賞を受賞しているプロダクトデザイナーに高級感がありつつ量産可能な3種の器に仕上げてもらっています。

人間工学に基づくデザイン。熱に強く、食洗機も使用可能。キャンプで忘れても、土に還ることまで想定されている。

展示会をきっかけに、業界を問わない協業スタート。
2021年12月サスティナブルマテリアル展に出展すると、翌年の4月からプラスチック資源循環法が施行されることもあり、400社1,300人以上の方が幅6メートルほどの小さなスペースに来場し、注目のブースに。

訪れたのは、カトラリーやアメニティなどを取り扱うホテル関係、質感や耐熱性などに関心が高い生活雑貨・家具関係、柔軟性や耐久性、衝撃性などを重視する自動車関係や電機関係など幅広い業種の方々でした。長年積み重ねてきたプラスチックの技術力や対応力に加え、徹底的な素材研究の後にプロダクト制作へと進んだからこそ、展示会で説得力のあるアピールができ、素材を多方面に展開するようなステップへと進んでいきます。

2021年12月8,9,10日に幕張メッセで開催されたサステナブルマテリアル展。

「いま、展示会で出会った企業さまのプラスチック製品をサステナブル素材に変えることを試作したり、企業さまが抱える未利用資源をアップサイクルしたりと数社との協業が始まっています。事前に用途まで決まっていることもありますが、素材が生まれた後の出口戦略までが私たちの仕事ですね。どう使うか、どう供給できるか、再利用はできるかなどの道筋まで考え、使用目的によって強度や柔軟性、耐熱性など物性を調整しています。どんなに優れた素材であっても、世の中に普及させるためのプロデュースは必要です。それを積み重ねることによって、石油プラスチックの削減に大きく貢献できればと考えています」(都地さん)

意外かもしれませんが、サステナブル素材を開発できるメーカーで、ニーズに寄り添い調整できるところはあまり多くないといいます。プラスチックを知り尽くした菱華産業だからできるサステナブル素材の開発とその応用を、今後スピード感を持って展開させていくことに期待が高まります。

※1プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律
※2
欧州特許庁(EPO)「2021年10月19日ニュースリリース(最終閲覧 2022/2/13)


菱華産業株式会社
本社所在地:東京都中央区日本橋室町4丁目6番2号 ※現在本社ビル建替工事中
      <移転先>中央区日本橋小舟町7番2号 ヤクシビル4階
URL         :http://www.ryokasangyo.co.jp/

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