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シーセブンハヤブサ × 廃校になった校舎

地域の人に愛される元小学校を
未来の田舎づくりの拠点に。

2040年までに、約50%の自治体が消滅するかもしれない。そんなショッキングなデータが2014年に発表されています※1。同じ頃から全国各地で地方創生が始まり、日本でもっとも人口が少ない県・鳥取県の八頭郡八頭町では人口減少の象徴ともいえる廃校を拠点に、行政や民間企業、地域住民と連携しながら田舎の未来づくりをスタート。地域に賑わいを生み、県内外から視察者が多数訪れています。拠点である隼Lab.の運営を一挙に担う「シーセブンハヤブサ」の諸岡若葉さんにお話を伺いました。


公民連携複合施設「隼Lab.」とは?

八頭町は鳥取県の南東部に位置する、民家と田畑が広がる中山間地。むかしから農林業が盛んで稲作を中心に、梨・柿・りんごなどの果樹栽培が行われるのどかな町です。2005年に3町が合併し、総面積が約200㎢、人口およそ2万人(2022年現在は約1万6千人)の町となり、9月に八頭町総合戦略を策定しています。4つの視点から地方創生を推進することが決まり、そのうちのひとつが八頭イノベーションバレーの創出。拠点となるのが旧隼小学校を活用して生まれた公民連携複合施設「隼Lab.」です。

ワークスペースは、フリーアドレス席のコワーキングスペースと個室のシェアオフィスの2タイプ。シェアオフィスには16の企業や団体が入居している。(入居例:県内企業の本社・支社として、都市部や海外を拠点とする企業の地方拠点として、地域活動団体の拠点として)

1階にはカフェやショップ※2、訪問看護の事務所、隼地区のまちづくり委員会※3(八頭町にある地域福祉推進組織のひとつ)などが入居。大規模病院がなく高齢者が多い地区ということから訪問看護の事務所に活用されたり、隼地区まちづくり委員会が高齢者向けに介護予防・健康づくりを目的とした集いを開催するなど地域住民を健康面から支える役割も担っています。

2・3階はシェアオフィスやコワーキングスペースがあり、この地区にこれまでなかったIT企業やクリエイティブ企業、企業家などが利用。シェアオフィスは、オープン前に約8割の入居が決まり、いまでは入居待ちが出るほどの人気があります。オープニングイベントは町の人口が1.7万人※4にも関わらず1,000人が来場しており、いまもビジネス支援だけでなく、若者や親子連れ、地域の高齢者などさまざまな人と賑わいを生み続けています。

なぜ、オープン時から老若男女に愛される施設になれたのか?

隼Lab.がオープン当時から多くの人に受け入れられた理由は、いくつかあります。ひとつは、明治時代に開校したこの地区唯一の小学校を活用したこと。ここで暮らす大多数が卒業生で、老若男女が参加する地域の運動会もここで開催されています。そのため、町民のほとんどが愛着を持っており、今後も人が集える場所にできないかと考える町民が多数いました。その想いが、八頭町が構想していた八頭イノベーションバレーと重なり、隼Lab.設立準備委員会が立ち上ったという経緯があります。

「準備委員会には、行政、地域住民の代表者、そしてこのプロジェクトに共感した民間企業が参加しています。隼小学校は町の人に愛されている場所だったので、当初から住民のみなさんも使うことを前提にリノベーションが計画されていきました。たとえば、カフェはだれでもカンタンに片付けられる座卓を並べたスペースをつくっています。これは、カフェの定休日に地域のご老人が体操やレクレーションなどに使えるよう考えた結果です。元図書室は子連れの方も使いやすいようカーペット敷きにしました。地域のビジネスを盛り上げるという一面をもっていながら、第二の公民館として使ってもらえるよう随所に地域の方の声が反映されています。また、計画が具体化していくなかで運営は100%民間でということになり、運営会社を新たに設立しています」。

隼地区のまちづくり委員会が、毎週火曜(カフェの定休日)にカフェの一角で開催する介護予防・健康づくりを目的とした集まり。毎週この日は、ご老人の笑い声が響いている。

運営のために新しく誕生した会社は、諸岡さんも所属するシーセブンハヤブサ。鳥取にゆかりのあるIT企業や映像・CM制作会社、銀行など民間企業7社(現在6社)が鳥取を未来につなぎたいという切実な想いで出資しています。

行政は町の資産である元校舎を整備し、シーセブンハヤブサに無償貸与。シーセブンハヤブサは町の補助金や出資等は一切受けず、シェアオフィスの家賃収益や地方創生に関わる事業などで隼Lab.を運営しています。さらに地域住民も運営に参画することで、隼Lab.は公民連携による地域の拠点づくりを実現。町の人口を考えると運営のハードルは高く感じますが、シーセブンハヤブサは設立時から黒字運営を維持しています。

当初は、町も出資する案が出ていたものの、民間の自由な発想を促したいという観点から出資しないことに決まった。

当初の活気を継続させるために。

2017年のオープン後も、多くの人がこの施設に関わり続けています。というのは、1年目はコミュニティマネージャーが1週間に2・3本のイベントを開催。これは参加者としてここに関わる人が増えてほしいという想いとともに、具体例を見せることで「こんなことでも使っていいんだ!」と気づきを与え主催者側になってほしいとの想いで行なった施策です。

また、地域の運動会をはじめとして、季節の郷土料理づくりや夏休みの工作教室など、地域住民が主催する行事にも隼Lab.を会場として利用できるという地域にやさしい仕組みに。地域外の来訪者にも楽しんでもらえる定期的なイベントとして、さまざまな出店者が集まるマーケットも月1ペースで開催しています。

定期開催している「はやぶさにちようマーケット」。出店者を募り、飲食や生活道具等の販売やワークショップを開催し、地域の人とともに隼Lab.を盛り上げている。

その結果、“隼Lab.=だれでもいろんな使い方ができる場所”という認知が広まり、“隼Lab.でイベントやワークショップを開催したい”という相談が多くなっています。

現在、ワークショップルームではこども向けのアート教室やプログラミング教室、体育館では運動教室などを定期開催。その他、料理教室やものづくりのワークショップや、過去には結婚式や音楽フェス、トミカ・プラレール フェスティバルなどといった大型イベントにも使われ、行政、民間企業、地域内外の方が多目的に活用する場に成長しています。

左上から、革ベルトづくりワークショップ、アスリートに習うかけっこ教室、親子ロボットプログラミング体験、鳥取県産の米糀と大豆で仕込む味噌づくり教室。イベントだけでなく日常的にも、近所の子供たちが放課後に遊びにきたり、カフェのお客さんもグラウンドやライブラリーなどでくつろいでいたりと、いろんな世代の人たちがこの施設をその人らしく楽しんでいる。

隼Lab.が地域の人々に親しまれるようになった理由は、元小学校ならではの広いグラウンドや体育館をはじめとする施設特徴はもちろん、1階にカフェを併設していることも深く関係しています。メニュー内容やホスピタリティに多くのファンがついており、町内や鳥取市、遠方では関西からもこども連れのファミリーや若者が多く訪れ、年間来客数は約3万人と鳥取県内でもトップクラスの集客を誇っています。ワークスペース、地域の活動場所、カフェなどさまざまな目的を複合させた施設だからこそ、さまざまな立場や年代の人々が集まり、多様な人たちで賑わいを生み出すことができています。

1階にあるCafe&Dining San。グリルサンドや自家製ドリンクなどの豊富なメニューや、明るく元気なスタッフのホスピタリティに多くのファンがついており、県内外から多くの客が訪れる。

持続可能な「田舎の未来」を目指して。

ビジネスのコミュニティを醸成し、さらに地域とのつながりをつくっていくことも隼Lab.の大きな役割です。隼Lab.のコワーキングスペースやシェアオフィスには、現在約40社の企業が入居・入会しており、コミュニティマネージャーが地域と企業をつなぐことで、IT・デザイン・テクノロジーの開発などをはじめとするこれまで町内になかったビジネス協業が始まっています。協業を促すために、コワーキングスペースにコミュニティマネージャーが常駐し、企業が「こんなサービスをつくったんだけど地域で使ってもらえないかな?」「地域と一緒にこんなことをやてみたいんだけど…」などといったことも気軽に相談できる環境を整えたり、グラウンドの芝植えや草刈りなど地域住民と入居企業がなにげなく出会える機会を創出。直接的にも間接的にもビジネスの化学反応が起きる後押しを積極的に続けています。

近年では地域と隼Lab.に入居する企業のコラボレーションが現実のものになっており、町内の事業者とIT企業が連携し農産物や縫製品などのネット販売を始めたり、地域の林業や農業の担い手とドローンの運転講習を行う企業が連携して産業のスマート化が進んでいます。

鳥取県初となるドローン配送の実証実験。​災害支援・過疎地域への宅配や配食サービスを想定し、行政と企業が協業して行った。

「ビジネス拠点としての隼Lab.の魅力は、さまざまな刺激やつながりが得られることです。一般的なオフィスビルでは得られない、企業同士や地域住民との出会いから新たなコミュニティが生まれることを大事にしています。隼Lab.に関わること自体が、近年の言葉でいえば地方創生やSDGsにもつながる、というのも企業にとって大きな魅力と感じてもらえています」。

また隼Lab.では、著名なビジネスパーソンを招いたトークショーや、起業創業・経営を支援するセミナーなども行政と連携して開催。地方の閉校した小学校でありながら、多くの人々が集い新たなコミュニティやビジネスが創出される拠点になったことで、県内外の企業からも注目される場所になっています。

講演会の様子。毎回、町内外からスーツの人や作業着姿の人、大学生など多様な人が集まり、講師の話に耳を傾けている。

独自の連携体制で、行政や地域とスムーズなコミュニケーションを。

スピード感を持った合意形成ができるよう行政や地域住民とのやりとりを1ストップでできる連携体制も整えています。行政に関しては、八頭町役場に企画課地域戦略室があり、ここが隼Lab.の担当部署。施設設備のような細かな相談から、今後の隼Lab.の取り組みに至るまで常に連携が取れる体制がつくられています。

さらに、地域の方の意思決定機関として、隼地区全員の意見を集約する隼創生会という団体も。これは、複数の集落がある隼地区の意見をシーセブンハヤブサが個別に確認すると時間がかかるため、隼Lab.が誕生する約8ヶ月前に設立されたものです。隼創生会のリーダーに伝えるだけで、隼地区全員の連絡や判断ができるような体制が構築されています。

「地域住民・入居企業、協働で草刈りなどを行う際は隼創生会から住民の皆さんにお声かけいただき、毎回たくさんの方が参加してくださるので助かっています。そのほかにも、昨年はドローンによる災害支援・宅配の実証実験を行った際に、隼創生会を通じて地域住民の皆さんにご協力・ご理解をお願いしたりなどもしました。隼創生会の会長さんは、私たちも日常的に顔を合わせる方で、かつ地域の方々にとってもよく知られている方なので、両方の架け橋になってくださっています。このような地域住民、行政とも日常的に連携できる体制は、隼Lab.の創設からいままでの4年間で、それぞれの協力と積極的な関わりによってつくりあげられたものだと感じています」。

地域に愛されていた元小学校を拠点にしたことや多様な人を受け入れる運営を続けてきたことなどから設立から4年ほどで、コミュニティ形成に成功しているシーセブンハヤブサ。今後さらに、地域課題の解決に向けた取り組みを創出・推進するために行政や金融機関とともに「八頭町未来の田舎(まち)プロジェクト」を2021年に始めています。現在は、コミュニティとテクノロジー、その他さまざまな技術で未来の田舎づくりを邁進させるために県内外の企業も含めた仲間を広く募集中。全国でもっとも人口が少ない県で「田舎の未来をつくりたい」という切実な想いを現実のものにするために、従来の枠にとらわれない地域&企業のコーディネートやエコシステムの構築、特区申請までも視野に入れた柔軟な体制を整えています。

※1  消滅可能性都市とは、増田寛也元総務相ら民間有識者でつくる「日本創成会議」が2014年の5月に発表。2010年から2040年にかけて20 ~39歳の若年女性人口が5割以下に減少すると予想される自治体のことを指している。
※2 チャレンジショップ。独立開業支援を目的とした期間限定のショップ。
※3 まちづくり委員会とは、八頭町のだれもが住み慣れた地域のなかで安心して暮らし続けられることを目的に設立された住民主体の地域福祉推進組織。隼地区だけでなく、旧小学校区を単位に複数存在している。各拠点は、旧保育所や公民館の一部を活用。
※4 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(総務省)


株式会社シーセブンハヤブサ
所在地                :鳥取県八頭郡八頭町見槻中154-2
サイト                :https://hayabusa-lab.com/

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