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LOCAL BAMBOO × 放置竹林

ご当地グルメを開発し、
食卓から竹害を食い止める。

松竹梅という言葉に象徴されるように、昔から縁起物といわれてきた竹。実は、その所以である強靭な生命力と成長スピード、そして現代社会の背景から放置竹林が増加し、各地に甚大な被害を及ぼしています。そんななか、竹害を防ぐべく起業したのが宮崎県延岡市にある「LOCAL BAMBOO」。実家の農地で竹害対策をスタートさせ、破竹の勢いで進化するゼブラ企業の取り組みを代表・江原太郎さんに伺いました。


いま、全国的に問題になっている竹害。

春を感じるタケノコ料理、日用品として重宝されたカゴやザル、日本の文化を感じさせる門松やししおどし、茶道具などとして、竹は古くから日本で親しまれてきました。しかし、安価で丈夫なプラスチック製品の登場や、タケノコの輸入自由化、生産者の高齢化などで放置竹林が増加。根が浅く横に伸びる性質や強靭な生命力から地盤を弱めたり、他の樹木を枯死させたり、イノシシやシカ、サルなど害獣の温床になったりと全国的に大きな問題になっています。たとえば、温暖で竹が育ちやすい熊本県では年間約5億、鹿児島県では年間約4億※※の獣害被害が出ています。

令和元年度(2019年度)野生鳥獣による農作物被害調査結果(熊本県) ※※ 令和2年度(2020年度野生鳥獣による農作物被害額の推移(鹿児島県)

<タケノコの生産量と輸入量の推移>

資料:農林水産省統計表

高校時代に見慣れた風景が、一変していた。

こうした問題に貢献すべく立ち上がったのが「LOCAL BAMBOO」。代表の江原太郎さんは、代々受け継がれた実家の田畑を耕しながら地元の農業を盛り上げたいという想いから、東京の大学や企業、各地の自治体で農業について学び、生まれ故郷である宮崎県延岡市に帰郷。ようやく地元の農業に携わることができると期待に胸をふくらませ山や畑に足を運ぶと、見慣れていた景色が一変していました。

「畑に行ってみると、以前は道だった場所や耕してない畑に大量の竹が生えていました。かつては、山と竹林と畑の境目がハッキリしていたのに、どちらも竹に侵食されていて。竹害のことはニュースで見たことはありましたが、現実を目の前にするとかなりの驚きがありましたね。竹をどうにかしないと作物もつくれず、東京にいると想像もつかないことが田舎で起こっている事実に、相当な危機感を覚えました」

竹林の管理が放棄されると竹の密度が高くなり枯死竹が増加。林全体が薄暗くなり、人が入ることもままならない状態に。

厄介者扱いの竹で、国産メンマをつくる。

竹を利用することが竹林・森林整備と竹害の認知拡大につながることから、各地で竹を使ったさまざまな商品づくりが行われています。たとえば比較的親しみのある竹炭、土壌改良剤にできる竹パウダー、建材や紙などに利用できるパルプ、バイオマス発電など。江原さんが選んだのは、だれにでも関係がある食を通しての解決。これは、竹害を食卓の話題にあげてもらいたい、食べることで竹害を食い止めたいという強い想いからでした。

「いろいろ調べているうちに、メンマが竹でできていることがわかりました。ただ、中国産の麻竹(マチク)という品種が一般的で、日本の竹はほとんどが孟宗竹(モウソウチク)でした。そんななか、孟宗竹で国産メンマをつくるタケマンさんという会社を見つけ、「これだ!」と思って連絡すると、翌週に宮崎出張を予定されていて、興奮が覚めないうちに技術を教えてもらうことができました」

※孟宗竹でメンマをつくる独自技術を開発し、2013年に創業した企業。代表・吉野秋彦さんは、全国の産地と連携し、放置竹林対策の支援にも取り組んでいる。飲食店をメインに約2,000店(2021年4月)との取引がある。本社は福岡県糸島市。

通常のメンマは、中国や台湾で栽培される麻竹(マチク)という品種を食用にしたもの。名前の由来は、ラーメンの上にのせる麻竹。

米・パン・パスタと相性抜群。まったく新しいメンマを。

その後は、地元出身のシェフと竹害対策と延岡を二大柱に、商品を具現化していきます。

「延岡市の85%ほどが森林で、その多くが放置竹林になっています。竹の成長スピードを考えると消費量を上げることが急務です。なので、メンマの味付けは食卓の常連である米、パン、パスタと相性がいいものと考えていました。さらに、延岡の風土も味わえること、本気でおいしいと思えることも大きなポイントでしたね。既存のメンマとは戦いたくなかったですし、原価と手間から鑑みて高級路線を狙える新しいジャンルをつくるために試行錯誤を繰り返しました。メンマ100gの価格は中国産だと100〜300円、国産は500〜700円のところ、1,500円というひとつ飛び抜けたような価格設定にし、持続可能なプロジェクトにできるよう心がけました」

延岡市森林経営管理制度推進方針

延岡の伝統野菜“七萬石とうがらし”。延岡藩主・内藤家と高遠藩主・内藤家のご縁から生まれています。

完成まで10種類ほどの試作品をつくり、構想から約1年をかけてようやく完成したのが延岡市の伝統野菜“七萬石とうがらし”と、半世紀以上も延岡市民に親しまれてきた渡辺味噌醤油醸造の“赤麦みそ”をブレンドした「延岡メンマ」。麻竹のコリコリした食感ではなくソフトな食感でピリッと辛い、まったく新しいメンマに仕上がりました。同時に、メンマ丼、メンマトースト、メンマカルボナーラ、メンマアイスといった固定概念にとらわれないユニークな料理を開発し、最高の食べ方としてサイトで公開しています。

左上からメンマ丼、メンマトースト、メンマカルボナーラ、メンマアイス。旨みの濃いメンマを、敢えて濃厚でクリーミーな料理と合わせても美味。

パッケージは高級感のある金に。形状は竹モチーフ。

JA延岡や福祉施設と連携する。

2021年5月からはJA延岡のタケノコ部会と業務提携を結んでいます。延岡市には、料亭の料理人にも愛される「金の筍」というブランド品があり、その規格は30〜50cm。それ以上に伸びると放置されることもあり、放置竹林の原因にもなっていました。規格外をLOCAL BAMBOOがほぼ正規の値段で買い取ることで、生産者の収入増加と竹害対策、そして質の高い延岡メンマの安定供給につなげています。

「2年前にUターンしたばかりの時は、地元で新参者扱いされていました。最初から、延岡の生産者さんとご一緒したかったんですが、どうしてもできなくて。実績をつくるために、実家で農作業や延岡メンマづくりをしていたら次第に認めてもらえるようになり、今年の5月にJA延岡と業務提携を結ぶことができました」

地道な活動から信頼を集め、地元の福祉施設とも連携。さらに、技術提供をしてくれたタケマンとも協力体制を組み商品づくりを進めています。

すべての工程をLOCAL BAMBOO が担当しつつ、地域の福祉施設や競合企業のタケマンと協働しながら商品づくりを行っています。

食卓に上がらないタケノコも、余すことなく食い尽くす。

また、商品づくりで廃棄される竹を、飼料として畜産農家に提供しています。主な廃棄は、メンマにするには硬い節。ただ、牛にとっては柔らかで乳酸菌と食物繊維がたっぷり含まれている栄養食。畜産動物の健康やフードロス問題にも一役買っています。

日本各地に、ご当地メンマのネットワークを。

現在、竹林と竹が 25%以上侵入している森林を合わせた面積は推計約 42 万 ヘクタール。今後LOCAL BAMBOOでは、この膨大な面積をオープンイノベーションで解決したいと考えています。

「孟宗竹は1日に119cm伸びたという記録があるほど成長が速く、1社で竹害対策をするのは到底無理があります。技術はいくらでも教えるので、一緒に解決してくれるネットワークを全国につくっていきたいですね。それぞれでご当地メンマを考えてもらって、地元の人に応援してもらいながら進めていければ。メンマで各地のことが知れるのも、楽しいですしね。竹林は傾斜がバラバラで効率化が図れないので大きな資本が入って解決するというよりは、草の根運動のように意思のある人たちが地道にやっていくのが向いていると思います。僕のことを知ってもらって、自分でもできそうと思ってくれる人が一人でも増えるとうれしいですね」

すでに、ご当地メンマプロジェクトは2つのエリアで進行中。たった一人で始めた竹害を食い止めるプロジェクトは、全国的に大きなムーブメントになりそうです。

※ 全国約1万6千点にプロットを設定した標本調査(森林生態系多様性基礎調査)


LOCAL BAMBOO株式会社
本社所在地:宮崎県延岡市上三輪町3401番地39
URL      :https://nobeokamenma.com/

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