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ナカバヤシ × 遊休農地

日本有数の製本技術を守るため、
遊休地を耕す兼業農家へ。

国勢調査では働く⼈が1,200⼈以下になると職種が削除されるといわれており、平成30年間に24の項⽬が姿を消しました。国勢調査に職種は残っているものの製本もまた、時代とともに需要が減少した仕事のひとつ。1923年に製本業で創業した「ナカバヤシ株式会社」では⽇本でも稀有な製本技術を経済的に⾃⽴したかたちで継続することを⽬指し、製本の閑散期にまちの遊休農地を活⽤したにんにくづくりをスタートしました。世界初の二刀流ともいえる、製本と農業。今回、その販促を担当する淡路奈穂さんにお話を伺いしました。


ナカバヤシの製本とは?

製本をメインに⾏なっている兵庫⼯場があるのは、雄⼤な⾃然と星空が美しい兵庫県養⽗市。平成16年に養⽗郡の4町が合併して⽣まれた、県下で最も⼈⼝が少ない市で、市内にはJRが2駅、⾼校は農業⾼校も含めて3校。兵庫⼯場が建つ大屋町は⼩売店も含め⽴地企業は数えるほど。そんな状況もあり1973年設⽴当時から地域雇⽤を⽣み出し、地域とともに歩む⼯場としてまちの⼈に親しまれてきました。⼀⽅で、近年の出版数の低下やデジタル化にともなう紙資料数の減少により、製本冊数が減少。雇用を維持し、職人の技術を継承することが、⼤きな課題となっていました。

兵庫県北部の但馬地域に位置する自然豊かな養父市。過疎化が進み、令和2年は8,385世帯、人口22,137人(養父市公式ホームページより)。

「製本冊数が減少しているなか、製本の技術の継承を⾏なうことが兵庫工場の喫緊の課題でした。解決のひとつとして工場内で別業務なども行っていましたが、もっと他にいい⽅法があるのではないかと社内で思い悩んだ結果、⽬をつけたのがまちの耕作放棄地予備軍でした。養⽗市は⽇本の総⾯積の約70%といわれる中⼭間地域で、ナカバヤシがファーストペンギンになり農業を成功させることで、企業の農業参入のモデルになるのではないかとも考えていました」(淡路さん)

なぜ、近隣で事例のないにんにくを?

兵庫⼯場周辺の農地では稲作が中心に行われている地域でした。今回、ナカバヤシでは3つのことをベースに作物を選定しています。ひとつ⽬が、製本の閑散期に植え付け・収穫ができること。兵庫⼯場の主⼒となる業務は、⽉刊誌や季刊誌を⻑期保存するために1冊に纏めてハードカバー仕立てに綴じ上げる諸製本と呼ばれるジャンルの特殊な製本です。全国の⼤学図書館の資料を製本しており、大学が⻑期休暇に⼊り、図書館の利用が落ち着く7〜9⽉や1〜3⽉がたくさんご注文をいただく繁忙期です。これ以外の時期を有効活用できる農作物がよいのではと考えていました。

熟練の技術が求められる製本作業。

「製本の閑散期に育てられること、養⽗市の⾵⼟に適していること、現在国内で需要が⾼い農産物であること。これらの条件に当てはまったのが、にんにくでした。ちょうど1〜3⽉は製本の繁忙期、5〜6⽉がにんにくの収穫、7〜9⽉は製本の繁忙期、9〜10⽉はにんにく植え付けという具合にそれぞれの繁閑がマッチし、年間を通じて業務の平準化が図れる作物でした。また、養⽗市が積雪の多い中⼭間地にあることから、⾼地では寒地系にんにく、平地では暖地系にんにくと、2種を栽培することに成功しました。⾷の安⼼・安全を求める社会的背景から、飲⾷業や⾷品加⼯業では国産野菜の需要が高まっていますが、特ににんにくは国内消費の約半分が輸入品、そのうち約9割が中国産という状況から参入することをイメージしやすかったということもあります」(淡路さん)

 

製本業にプライドを持つ職人たちの反応は?

兵庫⼯場で働く社員は、先祖代々この⼟地で暮らす⼈が中心ですが、みなさん10年以上かけてひとつの技術が習得できるといわれる製本の仕事にプライドを持って働いていました。

「これから農業に取り組むことを伝えると最初は疑念を抱く社員もいました。ただ、年々製本のご注⽂が減ってきているのは明らかで、このままでは製本ができなくなってしまうと危機感を抱いていた⼈も少なからずいました。そのため、この事業転換を伝える際は、兵庫⼯場の社員が⼀番⼤切にしている製本業を守るために農業に挑戦するということを理解してもらえるように尽⼒しました。その甲斐もあり、前向きに農業に挑戦していくことができました」(淡路さん)

いまでは、全社員で世界的に希少な製本技術を未来に継承する覚悟を共有しており、それが農業への推進力につながっているといいます。

左上から雑誌合冊製本、新聞製本、帙・四方帙(たとう)、論文製本。その他さまざまな製本手法があり、一点一点オーダーメイドで行っている。

 

近隣の遊休農地で、農業を始める。

農地の確保にも、1973年からこの土地で雇用を創出してきたことが良い方向に作用しています。

「兵庫工場は、周辺地域の人にとって身近な存在です。当初は、代々受け継いできた大切な土地を企業がお借りすることはできるのだろうかと依頼を躊躇していました。そんななか、20年近く放置された圃場をお貸ししてくださる方が現れ、そこからにんにく栽培がスタートしました」(淡路さん)

肥料は、義父市おおや堆肥センターで製造される「おおや有機」を使用している。

借り受けた土地は20年放置されていたため相当な荒れ地で、樹木の伐採・伐根からスタートし、相当苦労して農地として利用できるように整備しました。ナカバヤシの社員が農作業に取り組む様子を地域の方々が目にするようになり、ナカバヤシが農業に取り組む覚悟が広く地域の方々に知れることに。次々と周辺地域の使われなくなった土地を引き受け、最大14ヘクタールまで借地が広がりました。2016年には改正国家戦略特区法の施行を受け、企業初の農地購入に踏み切っています。

農業が、本業のいい刺激に。

製本業を行っていた社員が手探りで農業を始めました。土づくりから収穫・出荷まですべて社員で行っています。最も忙しい5~6月の収穫時は全社員が協力して作業を行い、2021年は90トンもの量を収穫するまでに至りました。

農業は気分転換になっているという意見が多く、制服を着替えることが業務のスイッチに。ときには標高500メートルほどの農地でも働くことは、ワーケーションにも近いものを感じます。長年製本を経験してきたことから職人肌のスタッフが多く、細かい作業がスピーディで丁寧。製本との共通点を見出し、やりがいを感じて働いているといいます。

出荷調整は1玉ずつ検品しながら行っている。

農場は、農林水産省が導入を推奨する第三者機関の審査により農薬・肥料・水・放射能の管理といった食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられるJGAP認証を取得している。

地域と連携した農業を実現。

この成功を受け、地域の農家もにんにく生産に勤しむようになり、地域の方が栽培したにんにくを約20トン受け入れています。乾燥機や貯蔵用冷蔵庫などの設備、更に販路開拓など、個人ではなかなか難しい部分を企業がサポートし、地域と連携した農業ができるシステムを構築。遊休農地が多いまちで、だれもがにんにく栽培にチャレンジできるような環境をつくりました。販路は、さまざまな部署でお付き合いのある企業や営業担当による展示会出展などを通じて着実に広げています。

国内最高級といわれる青森産よりはお手軽な価格帯で販売中。白くきれいなナカバヤシのにんにくは、レストランからご家庭まで、安心安全かつ気軽に使っていただける「ちょっと良い、ちょうどいい」にんにくです。国産志向が強いため多くの飲食店やメーカーで引っ張りだこに。「もっと売って欲しい」との声も挙がっています。

選別や乾燥などを行う「大屋にんにくセンター」「夏梅にんにくセンター」を設置。専用冷蔵庫も完備し、生産から貯蔵、出荷まで一貫して行える。

まず工場内の空気を変え、まちの空気まで変えていったナカバヤシのにんにく事業。もともとは祖業でもある製本技術をどうやって存続させるかという社内の問題を、地域の資源に着目して大胆かつ繊細に舵を切り、成功させていることには大きな驚きがあります。

SDGsの観点からも、遊休農地70か所を引き受けることで土壌の改善や生物多様性に貢献したり、家族農家の生産性向上をサポートしたり、収穫後の損失を含めた食品ロス削減などに尽力したりとさまざまな持続可能なアクションに紐づいています。

約半世紀にわたって地域の人とともに歩んできた工場だからこそ根本的な問題に立ち返り、両者が長期的にしあわせになれる方法を考えることができたのかもしれません。


ナカバヤシ株式会社 兵庫工場
所在地    :兵庫県養父市大屋町笠谷111
URL        :https://www.nakabayashi.co.jp/agriculture/

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