ネクアス × 卵の殻
消費量世界第2位の卵に注目し、バイオマスプラスチックをつくる。
レジ袋などに書かれている“バイオマスプラスチック”。これはトウモロコシやサトウキビなど“生物由来の再生可能な有機資源※1から生まれたプラスチック”のこと。日本では2030年までに200万トンのバイオマスプラスチックを普及させるという目標が掲げられていますが、資源の少ない日本でどんな原料から莫大な量をつくるかは喫緊の課題になっています。そんななか、日本が世界第2位※2の消費量である卵に注目し、殻を生かしてバイオマスプラスチック商品を開発するネクアスの山崎周一さん、柳田有美子さんにお話を伺いしました。
※1 化石資源を除く。※2 IEC(国際鶏卵委員会)が公表した2019年の日本人1人当たりの年間鶏卵消費量。
バイオマスプラスチックとは?
一般的なプラスチックの原料は石油。焼却時にCO2が排出されることから、温暖化の要因のひとつといわれています。一方で、バイオマスプラスチックの原料は、トウモロコシ、サトウキビ、植物油(廃油を含む)などが一般的。焼却時にCO2は排出するもののCO2を吸収しながら育つ植物が原料ということから、世界的に注目が集まっています。さらに、枯渇が心配される石油資源の消費量削減や、製造や廃棄過程で排出されるCO2の削減にもつながるといわれています。
そんなバイオプラスチックの製造量は、世界全体が約250万トン弱※3。日本は1万トン弱※4と試算されています。欧州や米国に遅れをとっているなか、日本ではプラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とする「プラスチック資源循環促進法」が今年成立。2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入するという目標を掲げています。
ただ、均一な品質のものが大量に確保できることからバイオマスプラスチックの原料として人気のトウモロコシやサトウキビが世界中で取り合いになっている状況や、日本国内では食べられる分しか栽培していない状況から、その調達の難しさが200万トンをクリアする大きな壁として立ちはだかっています。
バイオマスの種類
種類 | 廃棄物系 バイオマス |
未利用 バイオマス |
資源作物 |
---|---|---|---|
内容 | 一度利用して 捨てられているもの |
資源として 使われていないもの |
エネルギー源や製品の原料を目的として栽培される植物 |
具体例 | 食品廃棄物、廃棄紙、 黒液(パルプ工場廃液)、 下水汚泥、し尿汚泥、 建設発生木材、 製材工場等残材 など |
林地残材、 稲わら、もみ殻、 麦わら など |
糖質資源(サトウキビなど)、でんぷん資源(とうもろこし等)、油脂資源(なたね等)、柳、ポプラ、スイッチグラス など |
常識を覆すバイオマスプラスチックの製造方法。
この問題を解決すべく研究を続けているのが“「捨てる」という概念を捨てる”というコンセプトを掲げるネクアス。特徴的なのは、独自技術SANTEC-BIO(サンテックバイオ)です。これは、少量のプラスチックとバイオマス原料と水を250℃前後の真空状態にすることで、バイオマスプラスチック製品の元であるぺレットをつくるもの。石油生まれのプラスチックは水を嫌う性質がありますが、プラスチックと水、バイオマス原料が混ざり合う日本で唯一の技術です。
「圧力釜で料理すると骨まで柔らかくなりますよね。それと同じことが、この機械のなかで起こっています。珈琲かす、お米、貝殻、木粉、灰※5、焼酎かす、おから、段ボール、卵の殻も、この機械に入れるとグニャッと柔らかくなります。それで、プラスチックとバイオマスの接点が増え、液体のように混ざり合うんです。混ぜるものによって混合率は異なりますが、灰は80%のバイオマスプラスチックができプラスチック使用料を大幅に減らすことが可能です」(山崎さん)
※5 石炭火力発電所で微粉炭を燃焼した際に発生する石炭灰のうち、集塵器で採取された灰のことを指します。別名フライアッシュ。
一般的なプラスチックも、プラスチック以外を混合させているものはあります。たとえば、自動車のボディなどに使われているプラスチック※6は、ガラス繊維や炭素繊維などを混合させており、軽さや強度、高い耐候性が特徴です。バイオマスプラスチックも一般的なプラスチック同様、混ぜ合わせるものによって異なる性質のものに仕上がり、特に差が出るのは強度と香り。たとえばお米を混ぜるとしなやかで煎餅のような香りに、コーヒー豆ならコーヒーのような香り、卵の殻ならパリッとした性質のものに仕上がるといいます。
※6 繊維強化プラスチック(FRP)。
ニオイのない、卵の殻生まれのバイオマスプラスチック。
さまざまな原料からバイオマスプラスチックをつくっていると、不思議なことが起こります。ある日、SANTEC-BIOに卵の殻を入れて実験をしたところ、多くの研究者が頭を抱えていた嫌なニオイのしないバイオマスプラスチックが出来上がったといいます。
「卵の殻はプラスチックと相性がいい天然の炭酸カルシウムということから、数十年前から多くの研究者がバイオマスプラスチックづくりに挑戦していたんですが、温泉地のような硫黄臭を解消することができなかったんですね。卵の薄膜が原因というところまでわかっていましたし、香水のように香りを足してもうまくいかなくて。そんななか、SANTEC-BIOを使って卵殻のバイオマスプラスチックづくりをやってみると、ニオイがなくなったんです。これは、本当に驚きでした。さまざまな文献で調べてみると、ニオイの元・硫化水素が水に溶けやすい性質が功を奏していたとわかりました。高温・高圧のなかで水蒸気に硫化水素が溶け出して、完成した時に水蒸気とともにニオイが発散されていたんです」(山崎さん)
また、日本人の一人当たりの卵の消費量は、世界第2位※7。年間27万トンの卵の殻が出ています。卵殻でバイオマスプラスチックをつくることで、食品廃棄物の有効活用、プラスチックの大幅削減、バイオマスプラスチックの原料不足への貢献という3つのメリットから、ネクアスでは本格的に開発・製造をスタート。これまでポリ袋、発泡スチロール、ボトル、お菓子の緩衝材(トレイ)、マネキン、フィルムプランターなどを完成させています。
※7 IEC(国際鶏卵委員会)が公表した2019年の日本人1人当たりの年間鶏卵消費量。
「卵殻のバイオマスプラスチックも、これまでのプラスチックと同じ加工方法でさまざまな形状にすることができます。その技術をベースに、どんな商品にするのがいいかひたすら考えていきました。ポイントは、手触りや耐荷重、そして卵殻から生まれているというストーリーですね。たとえば、卵から生まれたバイオマスプラスチックを卵をたくさん使う菓子メーカーで採用してもらえるとおもしろいのではないか。和紙のようにザラっとした特徴を生かし、触れた違和感からエンドユーザーに環境について訴求できる商品をつくれるのではないだろうか、など。また、企業さんからお話をいただいて、ご希望のものをおつくりしたこともあります。先日は、3Dプリンターを使ってオフィス用のオーダー家具を納品しました」(山崎さん)
すでに大型商業施設のマネキンや、大手菓子メーカーの緩衝材(トレイ)に採用され、他の企業でも製品化の話が進んでいます。現在は大手食品メーカーから卵の殻を回収してバイオマスプラスチックをつくっていますが、いずれは各企業が排出した卵の殻から、商品を生み出し循環させるシステムも計画中です。
なかでも特徴的な商品は、2021年8月末に発売したフィルムプランターTAMAKARAKUN。卵殻生まれのバイオマスプラスチック初の、ダイレクトに生活者に届く商品です。
「約1ヶ月前に立ち上げたインスタグラムで情報発信していて、既に500〜600枚お買い上げいただきました。プラスチック製のプランターは捨てるときに困っている方が多いと聞き、社内で考案したものです。色は、土で汚れても目立たない赤卵カラーで、形はまちのある紙袋のようなものですね。インスタグラムのDMから感想をいただいていて、「使用前に場所を取らなくていいですね」「クシャッと捨てられていいですね」「コロナ禍で植物を育てたかったからうれしい」などよろこびの声をいただいています。また紙のようなテクスチャーなので、油性ペンや水性ペン、クレヨンなど自由にお絵描きすることもできるんですよ」(柳田さん)
実はこれ、植物を育てる理科、ぬりえなど自由に表現ができる美術、そして、環境問題を学べる社会といった3教科を横断した商品。そのため、STEM教育の教材として使って欲しいと考えており、入学シーズンに向け着々と改良を進めています。
また、BtoB商品も得意先と良好な関係性を構築できており、卵殻のバイオマスプラスチックをどのようにエンドユーザーに伝えると企業の魅力アップにつながるかを丁寧に伝え、得意先からは使用後のフィードバックをもらうことで、得意先の企業と商品のイメージアップを図りながら自社の技術力アップにつなげています。また、ネクアスでは、生分解性プラスチックをつくったり、廃棄物を回収して資源化するシステムづくりなどにも取り組んでおり、プラスチックを削減したり、廃棄物をさまざまなものに生まれ変わらせることを横断的に行っています。
素材選びや商品づくり、細やかなアフターケアも含めたネクアスの取り組みは、プラスチック削減で世界から遅れをとっている日本が、日本らしい解決策を前進させるひとつの起爆剤となりそうです。
株式会社ネクアス
本社所在地:福井県坂井市三国町南本町1-2-51
URL :https://neqas.co.jp/