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コークッキング × 飲食店の食品ロス

身近な食品ロスのレスキューから
生活者の意識を変えていく。

日本で排出される食品廃棄物は年間2,531万トン。このうち、食べられるのに捨てられている食品ロスは約600万トンにのぼります※1。これは、飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料援助量の1.4倍相当※2。また、この約半分が家庭から排出されているという事実も※3。このような現状を危惧し、食品ロス削減と生活者の意識変革を目指すプラットフォームアプリ「TABETE」を運営するコークッキングの篠田沙織さんにアプリ開発のお話を伺いました。


一過性のイベントから、毎日アクションできるサービスへ。

形・サイズ・重さなど食品の見栄えに対する高い基準、店頭で購買意欲を刺激する多種・大量陳列、食品流通における商慣習などさまざまな原因が複雑に絡み合う食品ロス。これは、食べ物がムダになるだけでなく、焼却時のCO2排出や埋立地不足にもつながっています。また、食料自給率(カロリーベース)がたった37% ※4の日本で食品廃棄が起こる一方で、世界中の9人に1人(8億1,500万人)が飢餓に苦しんでいるという※5食の不均衡問題も。

さまざまな問題に波及する食品ロスを削減すべく、立ち上がったのが現在TABETE(アプリ)を運営しているコークッキング。当初から現在のようなサービスだったわけではなく、もともとは廃棄の危機にある食材を使って、無料でスープを振る舞うワールドディスコスープというイベントを行なっていました。ただボランティアに頼る一過性のイベントだと食品ロス削減の意識をキープすることが難しく、日々取り組める仕組みづくりへと舵を切ります。

ディスコスープでは、規格外の野菜や余ってしまった食材をみんなで持ち寄り、調理。青山ファーマーズマーケットとコラボしたこともあります。

そこで注目したのが、デンマーク生まれの食品ロス削減アプリ“too good to go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)”。これは、メーカーと生活者ではなく、飲食店と生活者をつなぐプラットフォームの先駆けでした。2017年当時の日本は、対メーカーの食品ロスサービスはちらほら存在したものの、このようなサービスはほぼ皆無。より生活者に身近な飲食店から食品ロスに対する意識変革を目指し、共同代表の川越一磨さんと伊作太一さんがデンマークでサービスをリサーチしながらアプリ開発を進めていきます。

デンマーク

市民意識が醸成されていなかった日本で、飲食店の反応は?

以前から食品ロス削減に対する市民意識が高い欧州では、デンマーク以外でもtoo good to goが人気アプリに成長していました。一方日本では、SDGs(持続可能な開発目標)の「目標12:つくる責任つかう責任」で、解決目標のひとつに食品ロスが掲げられていることにも関わらず、採択から2年経った2017年も意識は低いままでした。そのため、サービスをリリースするまでの大きなハードルは飲食店への営業だったといいます。

日本の食品ロスに関する出来事

『登録料・掲載費0円で、成果報酬型。売れた分だけ手数料が発生するという最低ラインまで導入のハードルを下げましたが、“食品ロスを売る”という概念をなかなか理解してもらえませんでした。「食品ロスなんて、買う人はいるの?」「食品ロスがあるというのは、経営が下手ですというのと同じだ」のようなお言葉をいただくこともめずらしくありませんでした。そのため、直近のメリットだけでなく、これからのお客様は企業の社会貢献活動をチェックしてお買物するようになるという将来の消費傾向に至るまで丁寧に話していきました。導入を躊躇した店舗さんには、常連さんが安い商品に流れることを懸念した方もいらっしゃいましたが、実際に利用された店舗からは「TABETEが来店動機になり、新規ユーザーの獲得につながった」「来店時についで買いをしてくれて、売上げがアップした」「廃棄量が削減し、ゴミ処理費用が軽減された」「高級路線なので店頭値引きはできないけれど、クローズドで食品ロス削減対策ができて嬉しい」など良い事例が生まれ、掲載店の増加につながっていきました』

TABETEのスキーム

生活者には、リリース時から受け入れられた。

一方、生活者にはすんなり受け止められ、マーケティングコストほぼ0で登録ユーザーを増やすことができたといいます。

「2018年のリリース当時は、食品ロスに関するサービスが増えていた時期だったため、他社さんとまとめてテレビや雑誌などで紹介してもらう機会が多く、一気にユーザーを獲得することができました。代表の川越が飲食店で働いた課題意識からサービスを立ち上げたストーリーも、共感につながったのかもしれません。のちのユーザーヒヤリングでは、飲食店のアルバイトで食品ロス削減をしたいけれど何もできずにストレスを感じていた人が多かったこともわかっています」

事前にアプリから購入し、店舗で購入画面を見せると食品をレスキューできます。

食品ロス削減を、オトクに楽しく。

TABETEが生活者にすんなりと受け入れられたのは、社会背景だけでなく楽しく取り組める工夫がアプリ内に散りばめられていることも理由のひとつ。たとえば、食品ロス削減を“レスキュー”と表現し、使うほどにレベルアップするヒーローや共に戦う隊員(ユーザー)とのCO2削減量など地球貢献度を可視化しモチベーションアップにつなげています。SNSには、 #レスキュー報告 というハッシュタグをつけて投稿するユーザーもおり、サービス拡散と食品ロス削減の普及にも効果的に働いています。また、一商品ごとに出品理由を書く欄も設けています。

「掲載店には、出品理由は加盟店に赤裸々に書くことを推奨しています。たとえば、商慣習から賞味期限の1/3超えの商品を店頭に並べることがはばかれること、天候や気温によってパンの売り上げが落ちること、肉のスライスミスや端切れは食べ放題でも提供できないことなどさまざまな理由を書いてくださっています。正直に書くことで応援したくなる気持ちを後押しするだけでなく、ふだんはあまり気づかない食品ロスの背景を知ってもらい生活者の行動変容につながればと考えています」

アプリにはコークッキングの想いが端々に表れており、使っていくと、だれもが気軽に楽しく社会を変えることができること、逆に意図せず環境負荷に加担している可能性があることに気づかされます。

ユーザーの声に耳を傾け、こまめな改良を繰り返す。

すべての人が気持ちよく売り買いできるようユーザーアンケートやヒヤリングもこまめに行なっています。TABETEは完全成果報酬型なので、掲載店の売上はコークッキングの生命線。「高すぎて食品ロスではないのでは?」というユーザーによる疑いが上がってきた際は、食品ロス削減アプリではめずらしかった価格帯設定を売上の良い価格をもとにつくり、掲載店をサポートしたこともあります。

「ヒヤリングは目的を伝えることからスタートしますが、話が脱線してもひたすら耳を傾けるようにしています。そうすることで意外な本音を教えていただけ、ハッとさせられることが度々あります。みなさんとても熱心で、一緒にサービスをつくってくださっているような意識でご協力してくださってありがたいですね。最近はターミナル駅に掲載店を増やして欲しいという要望を吸い上げ、いち早く商業施設で展開することができました」

また、多くの自治体が、食品ロスと生ゴミの焼却費用に悩んでいることからTABETEと連携することも。特に、食品ロス削減は効果測定が難しく、参加店舗・参加者数・食品ロス削減量・CO2削減量などが数値でわかることが重宝されているといいます。

コロナ下で、ユーザーが11万人増。

人々が暮らしを見直すきっかけとなったコロナ下では、ユーザーが約11万人増加。1ヶ月あたりの出品数と購入食数も約3倍※6となり、より一層生活者に身近な存在になっています。

「食品ロス削減へ気軽に取り組めることは大前提として、以前は、高級店も含めふだんは行かないようなお店の味がオトクに試せることや、いつもの飲食店や自炊の味では食卓に飽きがでるという理由などでご利用いただいている人が多かったです。コロナ下では、それに加えテイクアウト需要や応援消費、さまざまな制限があるなかで外出のきっかけやリフレッシュに使っていただいてたことがわかっています。ユーザーさんのなかには、毎日購入するわけではないけれど見るだけでも楽しいといってくださる方もいて、地球に優しいグルメガイドと感じている方もいるようです」

掲載店も1,650店舗まで増え、最近では「TABETEを導入していることが従業員の満足度アップにつながっている」「社会貢献への意識が高いZ世代に、TABETEを利用していることがアルバイトの志望動機といわれた」という声も挙がっています。

これからは、食のサプライチェーン全体で食品ロス削減を。

今後は、生産者やメーカーなど食のサプライチェーン全体を網羅したいと考えており、第一弾として11月に鹿児島で“おすそ分けツーリズム”という食品ロスとCO2削減につながる地産地消イベントを開催。潜在的なニーズに、独自のヴィジョンを与えたサービスが、今後どのように発展するか期待が高まります。

食品ロス削減への消費者意識が日本でまだまだ低い時期にリリースされたTABETE。その工夫を凝らしたサービスが利用者一人ひとりを触発し、新しい消費文化の土壌を着実につくっています。

2020年4月1日からの1年間に、7万食以上がTABETEを通じて消費者の手に渡り、推計36.8トンの食品ロス削減、101.3トンのCO2排出削減に貢献。(1食あたり500gとして概算、CO2排出量は国際連合食糧農業機関(FAO)による概算値を参照)

※1平成30年度推計値農林水産省  農林水産省「食品ロスとは」   農林水産省「⾷品ロス量の推移(平成24〜30年度)」※2 2019年で年間約420万トン  ※3 食品廃棄物等及び食品ロスの発生量の推計値(平成30年度)環境省データ  ※4 令和2年度 農林水産省データ ※5 UNICEF 2018年版「世界の食料安全保障と栄養の現状」報告書 https://www.unicef.or.jp/news/2018/0151.html    ※6 1回目の緊急事態宣言が発令された2020年4月以降の前後9ヶ月を比較。


株式会社コークッキング
本社所在地:東京都港区南麻布3-3-1 麻布セントラルポイントビル3階
URL        :https://tabete.me/

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