ノカテ × 遊休農地 × 地域の生業
リモートワーカーに地域の生業をひらき、 関係人口UPで文化的景観を守る。
2021年3月、越前海岸の水仙畑※1が重要文化的景観に選定されました。これは、福井県内初で、花の栽培地としては全国初のもの。選定されたことにより、身近でなかなか気づきにくい景観の文化的価値に目を向ける人が増え、国の補助も受けやすくなります。一方、このエリアでは少子高齢化や人口減少から、地域の担い手不足が深刻化。重要文化的景観に選定される1年以上前から水仙畑に魅了され、その景観を守るための新しい生業づくりに取り組む「ノカテ」の髙橋要さんにお話を伺いました。
そもそも重要文化的景観とは?
重要文化的景観とは、地域における人々の生活や生業、その風土によって形成された景観地のこと。つまり、これらを保存することは建造物や工芸品、古文書など有形文化財のようなモノの保護ではなく、地域の生活や生業を未来につなぐことであり、その根底にある自律的な地域コミュニティの存続が大切といえます。一方で、重要文化的景観に選定される地区の多くは担い手不足や獣害・自然災害が深刻化しており、保存計画はあるものの実際にどうやって地域コミュニティを継続させていけるかが今後の大きな課題です。
そんな地域のひとつである越前海岸の水仙畑に魅了されたのが、髙橋要さんをはじめとする30〜40代の建築家・デザイナーなどさまざまな職業の6人で構成されたノカテ。目を向けたきっかけは、福井市主宰の事業創造プログラム(2019年)のなかでフィールドワークをしたことでした。そこで、圧倒的ともいえる美しい景観に目を奪われ、実直に水仙栽培をする70代の農家さんと出会います。
価値観の変化が、担い手不足につながっていた。
同時に、後継者がおらず10〜15年でこの景色が失われるかもしれないと危機感を抱き、何度も足を運ぶうちに担い手が少ない理由がだんだんとわかっていきました。
「後継者が少なくなった理由は、このあたりで暮らす70〜80代の方がパラレルワーカーだからです。たとえば、冬は水仙をとるんだけど、春はワカメをとって。ワカメが終わるとウニをとって。それが終わるとアワビ、サザエをとって。海での仕事がなくなると、大工に出稼ぎに行って、また冬になると水仙をとるというサイクルで、さまざまな仕事をつなぎ合わせながら年間の生計を立てていくのが当たり前だった世代なんですね。ひとつ下の世代は、1社を長く勤め上げるという価値観が主流になって後継者が少なくなっていきました」
冬の仕事のひとつである水仙は担い手不足とは裏腹に、その姿や香り、日持ちの良さから“越前水仙”のブランド名で全国的に人気を博し、華道でも冬の大切な花として重宝されています。
また、越前海岸は日本水仙三大群生地※2のひとつであり、その面積は 70ヘクタール以上と日本最大。ノカテでは遊休農地を借り、京都や滋賀など県外で暮らすメンバーも含めた6人が実際に栽培・出荷することでこのエリアの水仙を生産者・生活者目線で見直し、ビジネス化の道を探っていきました。
挑戦して気づいたことは、年に数回の草刈りが必要ではあるもののあまり手をかけなくてもたくましく咲いてくれること。花のつき具合や茎の長さ、葉の色などJAの厳密な規格をクリアしたものだけが“越前水仙”というブランド名で出荷できること。そして、花だけなら11月後半から3月上旬までとれること、3〜4年は球根の植え替えなしで花が咲き、袴※3ごと収穫すると2〜3年休眠してしまうことなど。そこで、農業未経験者でも収穫ができ、生活者がその魅力を存分に楽しめる商品はなんだろうと考え、約30本の花だけを贅沢に束ねた“SUISEN Bouquet”を開発します。これは、香り高い日本水仙の魅力をあますことなく享受する方法の提案でもありました。
2021年末から販売するとコロナ下で自然の香りを欲していた人が多かったことと相まってか、その反響は大きく「香りの強烈さに感動した」という声や、ダンボールからこぼれでた花気に宅急便の方が驚き「すごい香りですね」と手渡してくれたというエピソードも。シーズンのスタート前に離島を含むさまざまなエリアにテスト配送していたこともあり、好評のうちに完売しています。
地域と接点をつくる仕事へ。
2020年にテストマーケティング、2021年に通信販売(一部、店舗販売)を行ってきたノカテは、2022年にまた新しいチャレンジに取り組む準備を進めています。
「今年の販売データをもとに、現場で働く仲間を増やしていきたいですね。これまでは、地域で暮らす人だけで景観をつないでいくのが当たり前でしたが、これからは外から来る人の力を借りながら景観を守っていければと思っています。僕たちが水仙畑で働き続けるというよりは、僕たちがつくった土台を利用して必要なタイミングで越前海岸と関わりながら小さな生業を楽しんでくれる人が増えてくれたら。水仙栽培で冬だけと思って住んでいても地域との関係性ができるので、ここを気に入って本格的に移住してくれるのが理想ですね。そのために、水仙栽培だけじゃない多様な入り口をたくさんつくって、さまざまな人に地域との接点が生まれる機会も増やしていきたいです」。
パソコンひとつで働けるデザイナーや建築家などが畑仕事を実践しながらカタチにしたSUISEN Bouquetは、全国のリモートワーカーに新しい働き方を伝える媒介となり、越前海岸だけでなく他の産地にも大きなエネルギーを与えていきそうです。
※1 越前海岸の水仙畑 下岬の文化的景観(福井市)、越前海岸の水仙畑 上岬の文化的景観(越前町)、越前海岸の水仙畑 糠の文化的景観(南越前町)の3件。
※2 日本水仙三大群生地は、千葉県の房総半島、兵庫県の淡路島、福井県の越前海岸。
※3 袴とは、根元部分で葉と花茎をまとめているサヤ。花器からは見えないが、生け花で形を整えるために重宝されている。
Photo by Kyoko Kataoka
ノカテ
所在地:福井市居倉町38-2
URL :https://nokate.theshop.jp/