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シモダ産業 × 排熱

雪国のバナナが、
みんなで地域を育むきっかけに。

上場企業の半数以上が東京※1にあることや4年生大学の約3割が首都圏にあること※2などさまざまな背景が引き起こした東京一極集中。そして価値観の多様化による未婚率の上昇、育児と仕事を両立させる難しさなどから少子高齢化が加速。その結果、地方ではさまざまな問題が生まれています。今回、既存事業とはまったく異なるアプローチで、地域への愛着を育むきっかけとなる新事業に取り組む「シモダ産業」の霜田真紀子さんにお話を伺いました。


高齢化や人口減少が、地方にもたらすデメリットとは?

人口減少や超高齢化など地方が直面する構造的な課題に対し、国や自治体などによる地方創生の取り組みが2015年から始まっています。人口減少は地域社会の担い手不足になるだけでなく、行政サービスの廃止もしくは有料化、病院や学校など暮らしに関するサービス減少などまちの機能低下につながることも。たとえ儲かっている企業でも後継者不足で廃業に追い込まれるケースもでてきており、魅力ある企業がなくなることが都市への人口流出につながり、さらなる人口減少に拍車をかけてしまいます。

まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)及び 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」」を参考に作成。

忘れられない絶品バナナを、新潟で。

そんな地域課題を自分ゴトと考えてくれる人を少しでも増やしたいという想いから新規事業を立ち上げたのが、鋳型やその原料製造・産業廃棄物処理を手がけるシモダ産業。本業とはまったく異なるBtoCの商品開発を通じて、多くの人が柏崎市に愛着を持つきっかけづくりに着手します。もともと社長の霜田彰さんが焼却施設の排熱利用について思案していたところ、「フィリピンで感動した完熟バナナをふるさとで栽培し、地域の人に食べてもらいたい」との考えに至りすべてがスタート。当初困惑した社員もその熱に押され、どうせやるなら地域課題を解決する一助となるものにしたいと奮起し、ゼロからバナナ栽培に取り組みます。

2017年に運転をスタートさせた焼却炉(内部)。この焼却炉の排熱を使って、バナナを栽培することに。

シンプルで理にかなった排熱利用。
雪国のバナナづくりで最も重要となる排熱利用は、非常にシンプル。約850度の焼却炉※3の炉壁を冷やすための水を200メートル先のファームに配管で届ける仕組みです。90度まで温度上昇した冷却水がファームを温め、その水でふたたび炉を冷却。間にファームを挟んだ熱と水の循環で、冷却効率が上がり水の蒸発量が減るという副次的なメリットも生まれています。

バナナづくりに関する苗探し・配管工事・栽培などの新業務は、基本的に社内で協力しながら取り組み、バナナ栽培のリーダーのみ採用。幻のバナナといわれるグロスミッチェル種の契約を結んだ岡山の農家で、元・苺農家の猪股弘士さんが3ヶ月ほど研修し、土壌や日照条件などの異なる柏崎市にローカライズさせながら栽培していきました。

焼却炉の炉壁を冷やした熱水をファームに送る配管。

コロナ下でも、ユニークなストーリーで人気に。
社内でこれから収穫・販売と盛り上がっていたところ、コロナ下に。初年度は、一度も収穫したことがない、試食もできない、ファームも見られないという悪条件のなかで“越後バナーナ”の販売先を探していきました。

「当初は柏崎市だけで買ってもらえればと考えていましたが、販売予測で首都圏まで販路を広げないと厳しいといわれ弱気になっていました。ですが、新潟県の青果店4店舗が排熱利用の雪国バナナというストーリーに魅力を感じてくださり、1本約1,000円の高級バナナを販売してくださいました。フタを開けてみると地元の方々が県内消費や贈答品としてお買い求めいただき、1年間で2万5,000本を売り切ることができました」(霜田さん)

バナナと一線を画す新たな新潟のフルーツということから「越後バナーナ」というネーミングに。社員で協力して作業することにより、共通の話題が生まれ以前よりコミュニケーションが円滑になったという。

さらに、収穫時に出てくる直径30cm長さ2〜3mの切り株で地元和紙職人に“越後バナーナ和紙”をつくってもらったり、規格外のサイズは新潟の人気製菓店で地域の高級バナナがウリのスイーツとして展開されたりと新しい特産品が生まれています。

一般的に再資源化では安さが購入動機になることが多いなか、付加価値をつけた商品化に成功。これは手間ひまかけて育てた植物をあますことなく大切にしたいとの想い、魅力的な組み合わせを考える編集力、地域に根ざしたネットワークからプロデュースできたことでしょう。

地元スイーツ店のシュークリーム、ロールケーキ、シェイクなどの材料に。バナナの害虫がいない気温から無農薬栽培が可能となり、皮ごと使ってもらっている。

親しみやすいバナナを入り口に、地域について考える。

バナナというだれもが知ってる果物を栽培したことで、シモダ産業を身近に感じてくれる人が増え、企業の排熱利用視察、小中高校生の総合学習として足を運んでくれる人が生まれます。

こどもたちはバナナを入り口に、リサイクルや食品ロス、産業廃棄物、働くことなどを学び、霜田さんたちは“まちは一人一人が集まってできているものなので、できることを続けていくとまちが変わるんじゃないの?”と問いかけています。総合学習後は毎回手紙が届き、それぞれの視点でムリなく継続できるアクションなどが書かれており、こどもたち一人一人がまちをつくっているという意識が芽生えているそうです。

2021年の10〜12月の3ヶ月だけで、580人が見学。これは、柏崎市のひと学年の人数だといいます。シモダ産業では「この活動を長年続けることで、柏崎市のみんなと会えるね」と話し、社内のモチベーションアップにもつながっています。

「こどもたちがいつか出身地を聞かれた時に新潟県ではなく柏崎市といってもらえるくらい、まちの愛着を育む一因になれたらうれしいですね。たとえ柏崎市を出ていくことになっても、かかわりを持ってくれたり、県外で柏崎市のことをだれかに話してくれる人が増えたらいいですね。いまはコロナ下で難しいですが、いずれは柏崎市にわざわざ足を運んで買いたいスイーツ※4というところまで認知力、ブランド力を上げられればと思っています」(霜田さん)

大人もこどもも地域に目を向けるきっかけを生み出す雪国の果実は、着実に豊かなまちをつくるエネルギーになっています。

<COLUMN>日本のバナナ事情

※1会社四季報オンライン編集部の集計データ引用  「会社四季報」2021年1集(新春号/2020年12月発売)
※2 文部科学省「
文部科学統計要覧(令和2年版)/ 学校教育総括 より」より算出。(最終閲覧 2022/3/8)
※3 新潟県で、焼却施設を設置する場合は事前に新潟県の環境課に申請が必要。その条件に800度以上でごみを焼却できること、燃焼温度を測る温度計が付いていること、十分な量の空気が通り不完全燃焼しないことなどの構造基準がある。シモダ産業では、焼却炉の内部温度を850度に調整している。
※4 認知拡大、ブランド力向上のため都内でも数量限定で発売を計画中。


シモダ産業株式会社
本社所在地:新潟県柏崎市松波2丁目6番43号
URL         :http://www.shimoda-sangyou.co.jp

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