OYAOYA × 中山間地域の廃棄野菜
規格外野菜に付加価値をつけ、 中山間地域の農家をサポートする。
農地というと、高低差のない平坦な土地をイメージする人が多いかもしれません。実は、山の多い日本では約4割が中山間地域※1。傾斜があり農地としては不利な点が多いため、他のエリア以上に農家離れが進んでいます。今回、京都の中山間地域で汗を流す農家の支援を目的に、これまで積極的に流通されていなかった規格外野菜に高付加価値をつけて販売する乾燥野菜ブランド「OYAOYA」の小島怜さんにお話を伺いしました。
国土の約7割を占める、中山間地域の危機的状況。
日本の耕地面積の約4割は、平野の外周から山間地までを指す中山間地域。まとまった平地があまりなく単一作物の大規模栽培や大型機械の導入が難しいことから、他エリアよりも農家の担い手が減少しています。また、集落の過疎化によって、学校の統廃合、商店やスーパー、会社など日常のサービスや就職先が少なくなり、若い世代は都市部へ流出。さらに過疎が進むことで農家の担い手がいなくなるという負の連鎖が生まれています。
また、火山大国のため地面が脆く地震が多く、世界平均の約2倍の降水量※2という日本では、中山間地域の農家が作物を育てていたことが土砂崩れや土壌浸食を防ぐ役割も担っていました。そのため、この地域から農家が少なくなることは、防災の観点からも好ましいことではありませんでした。
この危機的状況に目をつけたのが、大学で農業地理学を専攻していた小島さん。在学中に、京都府で農業に従事する人について調べたところ、農業就業人口はここ10年で約4割減少していることに気づきます。特に、都市部の京都市より中山間地域である北部京都の廃業が著しく、全国平均より深刻な高齢化に。70代の農家もめずらしくなく、この先ずっとここで農業が続いていくためには早急な対策が必要と危機感を覚えます。北部京都の万願寺唐辛子が小さい頃から大好きな小島さんにとって、他人事とは思えない現実でした。
縁もゆかりもない北部京都の農家を直接リサーチするため、GoogleやSNS検索をたよりに自宅から2・3時間ほどかかる北部京都へ頻繁に通い始めます。ときには、車窓から見えた看板をたよりに農家へアプローチしたことも。寄り添うように会話をしたり農作業を手伝っていくうちに信頼関係が生まれ、ここの規格外野菜を乾燥させた商品を手掛けられるようになります。
規格外野菜に注目したのは、このあたりの収穫量の約3割を占めていたから。北海道のような広大な平地でないため少量多品種の野菜づくりが一般的で、多種多様な規格外野菜を販売するには、作業量と輸送費が大きなハードルでした。また、地元消費をしようとマルシェを開くにも消費者とのつながりがなく過疎地への集客が難しい。低価格で販売される規格外野菜の利益と手間を考えると畑の肥料にする方が賢明ともいえ、収穫の3割が売り上げになっていませんでした。また、日本で廃棄される規格外野菜は183万トン※3。このモデルがうまくいけば、他エリアでも参考になるのではとの想いもありました。
「乾燥野菜は、すこし手間がかかる加工法です。一般的に高温70度を2-3時間のところ、OYAOYAでは低温40-50度で40時間とじっくり乾燥させていることもあり、効率は悪いと思います。ただ、僕が一人暮らしをするなかで、スープにサッと入れるだけで使える乾燥野菜がすごく便利だなと思っていました。いま、科学的なアプローチの健康食品が多いなかで、あえて地味でアナログな商品が個人的にはしっくりきたというのもあります。ここで出会った農家さんが、乾燥野菜を10年ほど手がけていたのも大きかったですね」
野菜は収穫した瞬間から鮮度が落ちていくため、畑の近くでドライにするのはとれたての美味しさを凝縮できて合理的。和食の基本は、生、煮る、焼く、蒸す、揚げるといった5つの調理法があるといわれていますが、それとは違い、噛むほどに旨味と甘味が強い野菜料理に仕上がります。乾燥して軽くコンパクトになり、生野菜と比べると輸送費のコストダウンにも。また、常温で半年間も日持ちするため忙しくて料理があまりできない人でもストックしやすく、不足しがちな野菜を手軽に食べられるという生産者にも消費者にもメリットがある商品を完成させることができました。
生活者や生産者とともに、よりよいブランドをつくる。
2021年5月、規格外野菜からつくった乾燥野菜ブランド「OYAOYA」をリリース。この名前は、京ことばでよく使われる接頭語の「御」に、「八百屋」を組み合わせたものです。「八百屋」にはリアル店舗のように対話を大切にしたいとの考えがあるから。販売のベースはECサイトですが、SNSでOYAOYAの商品を投稿したユーザーとZOOMをしたり、百貨店や小売店でポップアップストアを出店する際は売上げ以上にユーザーヒアリングに重きを置くなどリアルコミュニケーションを大切にしています。常に聞く姿勢でいることで味の感想だけでなく、野菜のまとめ方、ブランドコピー、調理法など多岐にわたる意見がユーザーから集まり、ともにブランドを成長させていくような流れが生まれています。実際に、ZOOMで会話したユーザーは百貨店に出店するたびに会話をたのしみに足を運び、料理上手のファンは使い方がわからない人のためにと写真とレシピをメールで送ってくれるといいます。
生産者からは、ブランド立ち上げ前に「消費者の顔が見えず、やりがいを感じにくい」「消費者のおいしいが、一番うれしい」などの声をもらっており、それが解消できるよう奮闘を続けています。施策のひとつとして、生産者の魅力と消費者の声を掲載した雑誌「Agriture」を創刊。小島さんが生産者の畑に訪れたときの驚きや発見、OYAOYAユーザーの感想や使い方などが紹介されており、生産者だけでなく消費者も顔が見えるよう編集しています。
商品ブランドというより、ひとつのコミュニティをつくりあげたOYAOYA。これからも生産者と消費者がそれぞれにとっての「農業」「野菜のある生活」を共有しつづけることが、ともに他者を考えるきっかけとなり、両者の暮らしがさらに豊かになる商品やサービスの構築につながっていくことが期待できます。それらをひとつひとつ積み重ねていくことで、OYAOYAはいま以上に人と社会にやさしいブランドへと発展していきそうです。
※1農林水産省「中山間地域について」 (最終閲覧 2022/4/7)
※2国土交通省「災害の記録」 (最終閲覧 2022/4/5)
※3農林水産省「作物統計データ(令和元年)」(最終閲覧 2022/4/11)
1,340万トン(収穫量)ー1,157万トン(出荷量)=183万トン
OYAOYA
本社所在地:京都府京都市
URL :https://oyaoya-kyoto.com/