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MTG × 捨てられていた椿の部位

名産品づくりで不要だった部位も
丸ごと生かすスキンケア。

「東の大島、西の五島」といわれ、椿の自生地として名高い長崎県・五島列島。縄文時代に使われていたという記述が残るほど古くから親しまれていますが、まだまだ研究機関で調べ尽くされておらず美容分野での活用は椿油くらいのものでした。そんななか生まれたのが、五島のヤブツバキを丸ごと生かすビューティーブランド「ON&DO」。10年弱を費やした商品開発ストーリーを、ブランド担当のMTGの飯田安規子さんに伺いました。


ふるさとで愛される花の、生命力に着目する。

「ON&DO」を展開するのは、ReFaやSIX PADで知られるMTG。ON&DOブランドの着想は、創業から16年目となる2012年。代表・松下剛さんが、ふるさと五島で生き生きと育つ野生種のヤブツバキに美の可能性を感じ、油だけではない新たな可能性を追求するスキンケアづくりをスタートします。

長崎港から西に約100kmに位置する五島列島。

五島は、2018年に潜伏キリシタン関連で世界文化遺産に登録された場所のひとつ。ひっそりと暮らしたい潜伏キリシタンが選んだエリアは、人が住むのが難しい痩せた土地だったといわれています。そんな厳しい環境下でも、生命力あふれる野生種のヤブツバキ(以下、椿)はそこかしこと咲いており、MTGの事業ビジョン“VITAL LIFE”とも親和性のある植物。また、島のあらゆるところで椿モチーフのデザインに出会うほど古くから愛されてきた島のシンボル。島外からもってきたものではなく、島の財産で産業をつくる挑戦でもありました。

椿カラーのステンドグラスが設計されている五島の教会。

島の伝承をヒントに、美容成分を発見・開発する。

椿は伊豆諸島や四国、九州、沖縄などにも自然分布していますが、椿油以外の美容成分が研究されたことはほとんどありませんでした。新規参入でも可能性のある領域を探りビジネス化してきたMTGの本領を発揮すべく、開発者が名古屋から五島に足しげく通い、小さな工場で椿の研究を進めていきます。

自社農園は、約6ヘクタールに約20,000本の椿が植えられています。ご高齢で管理が難しくなった農園を引き継いだもの。

「開発者が現地の人となにげなく会話をしていると“椿には雪が積もらない”と教えてもらったことがありました。すぐ農園に行ってみると、その言葉通りすべての花に雪が積もっていなかったそうです。そこから、雪が積もらないということは、何かしらの熱エネルギーを発しているのではないのかという仮説を立てることができました。椿に美容成分が隠れているという保証はなかったのですが、その強靭な生命力を信じてひたすら実験を繰り返していきました」

雪のなかでも、凛と咲く椿。

実際に花の温度を測ってみると外気より5℃高く、蜜に含まれる糖分から椿花酵母を発見します。たとえばパンの発酵は30℃前後、低温発酵といわれる日本酒でも6-15℃のように、ある程度のあたたかさがないと酵母は活動しにくいといわれています。厳しい寒さのなかで生き生きと活動していた椿花酵母の秘密を探っていくと、人体ではつくれない美容成分をつくり出せることがわかり、ON&DOではスキンケアに応用するため特殊培養。長い時間をかけ、ようやく美容発酵液・温酵母の開発に成功しました。

※サッカロミセス/(ツバキ花エキス/アテロコラーゲン)発酵液(保湿剤)

椿のサーモグラフィー。酵母が生息する花の子房は、周囲より温度が高いことを示しています。

「他にも、島の伝承をきっかけに研究が進んでいったことがありました。農園の通路には、椿の果皮が敷き詰められていることが多くあります。それに疑問を持った開発者が現地の人に尋ねてみると、“虫除けのため”と教えてもらったそうです。そこから果皮の殺菌成分についての検証が始まり、天然の洗浄成分であるサポニンが非常に多く含まれているという事実にたどり着きました」

通路に椿の果皮が敷き詰められている農園。

花・果皮だけでなく、葉・実・枝からも独自の有用成分を。

地域の伝承を手掛かりに花や果皮から意外な発見をしている最中も、椿のあらゆる可能性を探るために葉・実・枝の研究も進めていきます。

「果物をイメージしていただけるとわかりやすいと思いますが、椿の実をしっかり育てるために大量の葉を剪定し、そのまま捨てていました。どうにか美容原料に使えないだろうかとひとつひとつ研究を重ねていたところ、紫外線や乾燥など外的刺激から葉の内部を守るクチクラという成分の発見につながりました。これは、葉の表面にあるつやつやとしたロウのことです。椿は“茶花の女王”という異名があり、花に最も魅力があるようにも思えますが、語源は花ではなく葉という説がある珍しい植物です。昔の人も椿の葉には、なにか特別な力が秘められていると感じていたのかもしれません。研究を進めた結果、5種類の美容成分を開発することに成功し、今でも成分を研究し続けています」

※ ツバキ葉ロウ(エモリエント剤)

椿の語源は、葉につやがあるので“艶葉木(つやばき)”、光沢のある葉から“光沢木(つやき)”、葉が厚いので“厚葉木(あつばき)”などという説があります。

島の伝承や“もったいない”という想いなどアプローチはそれぞれですが、開発者の徹底的な研究から、これまで使われていなかった花・果皮・葉・枝からも美容成分を数多く発見・開発することに成功。現在、その成分を生かして15種(そのうち1種は数量限定)の商品を展開するまでに至っています。なかでも、椿葉クチクラは、2017年「Camellia Japonica Leaf Wax」という表記で、国際的な化粧品成分の表示名(INCI名)に登録することができました。

※ ツバキ葉ロウ(エモリエント剤)

ON&DOサイト「原料の効果」より(参照 2021-8-30)

持続可能な商品づくりを。

椿の若葉を使った「REFRESHING MIST(数量限定)」では、未来に葉を残すために“1つの枝から芽吹く5枚の若葉のうち、2枚の割合で使用”という独自ルールを決めています。これは、20,000本の椿を“20,000人の社員”と呼び大切に育てている農園チームと、数多くの商品づくりに携わってきた開発チームがたがいの視点で意見を出し合いルール化したもの。他の商品でも、常に農園チームと開発チームが話し合い、良好な商品サイクルが生まれるよう努めています。

若葉のミスト化粧水「REFRESHING MIST」。パッケージには”BIRTHDAY”と書かれた下に製造年月日を印字。ここにも、椿を大切に想う気持ちが表れています。

地域の特産物づくりで捨てられていた原料を、科学的な視点とクリエイティブな視点で丁寧に見つめ直すことから生まれたビューティーブランド「ON&DO」。企業の独自視点から地域の特産物を丸ごと生かし切るビジネスは、サスティナブル時代のお手本のような事例です。

 

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