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バリューマネジメント × 歴史的建造物

点在する歴史的建造物を
ひとつのホテルに見立て未来へつなぐ。

文化的に価値のあることが認められながらも、多くの歴史的建造物が急激に姿を消しています。国の登録有形文化財に指定された建物も、解体などを理由に登録を抹消されたケースは200件以上※1。そんな状況に危機感を抱き、地域に点在する歴史的建造物などをひとつのホテルに見立て、エリア全体を活性化させる企業があります。1棟だけでは難しかった観光需要をまちに取り込み、歴史的建造物と地域文化を未来へ紡ぐ「バリューマネジメント」の池上順一さんにお話を伺いました。


歴史的建造物を維持するハードルは?

空き家が増加している背景から、個人や企業、自治体それぞれのがんばりで歴史的建造物の維持費を捻出することが年々難しくなっているといわれています。そもそも、収益性は建物単体の敷地面積と関係しており、たとえば結婚式やパーティなどができる大きな建物は採算がとれやすい一方で、古民家ほどの小さな建物は法的な活用制限もあり収益性を上げることが容易ではありませんでした。特にこの問題の難易度を上げていたのは、建物1棟に対してひとつのフロントが必須という規制。バリューマネジメントでは、当初から宿泊に挑戦したいと考えていましたが、客室が1・2部屋しかない古民家ごとにフロントをつけてマネタイズすることはハードルが高く、頭を悩ませていました。

京都にある明治3年創業の料亭旅館のリノベーション。バリューマネジメントで、結婚式場として再生させている。

法改正で、各棟にフロントひとつから10分圏内にひとつへ。

風向きが変わったのは、2016年。国の観光ビジョン※2で「文化財を保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」と大きな方向転換が示されたタイミングでした。国家戦略特区となった兵庫県丹波篠山市の実証実験で、エリアマネジメントを得意とするNOTEとバリューマネジメントが、4棟11室の歴史的建造物をひとつのホテルに見立てた分散型宿泊施設の運用に成功。それまでは各建物にフロントが必須だったところ、10分圏内にスタッフが駆けつけられる場所にフロントひとつと設置義務が緩和されます。これをきっかけに、地域をひとつのホテルに見立てた分散型宿泊施設が各地で実現可能となりました。

<歴史的建造物に関する海外の活用事例>
●パラドール(スペイン)
城や宮殿・修道院など歴史的建造物を改修した国営ホテル
●ポザーダ(ポルトガル)
中世の古城や修道院など歴史的建造物を改修した国営ホテル
●アルベルゴ・ディフーゾ(イタリア)
空き家や空き店舗を改修して、フロントや客室・レストランをそれぞれの建物に分散させるホテル

兵庫県丹波篠山市にある複数の古民家を改装。城下町全体をひとつのホテルと見立てた日本初のプロジェクト。

よそ者が、まちなみ保全を推進する方法とは?

その後、バリューマネジメントでは国が選定する重要伝統的建造物群保存地区※3を含めた13エリアで分散型宿泊施設を展開※4。地域住民とともに、歴史的資源を活用した「観光まちづくり」を推進していきます。

「地域に入って事業を推進していくうえで、非常に重要視しているポイントは地域と一体になって進めていくことですね。これは絶対条件になります。たとえば大洲の事業は、大洲市と伊予銀行、NOTE、弊社で観光まちづくり協定を結び、それに基づいて観光まちづくりの舵取り役となるDMO(観光地域づくり法人)を立ち上げています。地域の方々が中心となった体制をつくり、それぞれの専門性を活かしながら主体的に事業を動かしてもらっています」

資料提供:一般社団法人キタ・マネジメント

たとえば、空き家に関する情報収集は大洲市、行政では取り扱いできない民間物件の改修・管理などはKITA、エリア計画はNOTE、ファイナンスは伊予銀行、施設運営はバリューマネジメントというように役割を分担したフレームを構築。これは非常に大変ではあるものの、所有者がバラバラの物件をまとめて管理可能となり、ひとつのコンセプトでまちを磨き上げられるようになります。データを集約できることで、空き家をマッピングするなど現状の俯瞰も。まち存続の危機感も共有し、地域との連帯感を深めることにも役立てています。

このようなフレームで数多くの分散型宿泊施設を成功させているバリューマネジメントですが、なかでも特徴的な施設は愛媛県の“NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町”。まちのシンボル・大洲城に泊まれるコンテンツを、地域の人とともにつくりあげています。

”NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町”では、当時の設計を忠実に再現した木造天守と重要文化財の櫓に宿泊できる。日本初の城泊は2年弱で100以上のメディアに取り上げられ大きなPR効果にも。

『地域のコンテンツは、”歴史的資源を活用した泊まれる観光まちづくり”という大前提を共有したうえで、地域の方といっしょにまちを歩いたり、さまざまな会議を繰り返しながら具体的なイメージを描いていきます。ざっくばらんに話せるように“妄想会議”というのも行っていて「これ、もっといけるんじゃないんですか?」「これ、すごく魅力的でした」「これは地域の宝なので、ぜひ使いたい!」「こんな感じでつなげていったら、おもしろいコンテンツになりそうですね」と地域の方とワイワイ話しながら商品造成しています。日本で初めてトライした城泊に関しては、「お城に泊まれたら、大洲にとってはひとつの大きな看板になりますよね」という一言から始まって具体的なアイデアをみなさんと練り上げて、この会議に参加した大洲の方から住民の方に合意形成をとったという流れがあります。これに限らず、ひとつひとつ地域の方とよそ者がそれぞれの立場で意見をぶつけ合うことで、地域住民にとっても旅行者にとっても良い事業になるよう心がけています』

大洲城は、明治時代に取り壊されて124年ぶりに甦った建造物。総事業費16億円のうち5億円以上はまちの人の寄付金といわれており、それだけ大切にしてきたものをコンテンツに組み込めたことは、まちの人とバリューマネジメントの信頼関係の賜物といえます。

大洲城に宿泊すると、入城体験や雅楽・伝統芸能の鑑賞など当時ここで生きた人たちの日常を追体験できる。

継続的にまちなみを磨き上げていくために。

“NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町”は2020年7月に宿泊施設がオープンし、2022年3月時点で新施設が9店舗も増えています。これはビジョンとディティールの両方を可視化、言語化していたことが、功を奏しているのだと考えられます。

たとえばアルバイトの面接であっても「なぜここに宿ができたのか」という話から始め、企業理念に賛同してもらえるかを大切に雇用を進めています。また、不動産管理をしているKITAがコンセプトに沿った店舗を誘致したこと、オーバーツーリズムを生み出すようなモデルではなく1部屋6万円から※5とターゲットに絞ったことで、歴史的建造物を生かした観光地のベースを構築。施設と観光客が生み出す風景を見た地域住民は「このまちには、こういう店があった方がいいよね」とまちづくりの解像度が上がっており、コンセプトからブレることなく地域を盛り上げる機運が高まっています。

旧大洲藩主の加藤家が大正14年に建築し、国の登録有形文化財に登録されている「旧加藤家住宅主屋」。旧大名家の住宅らしい格式の高さや、西洋風のモダンさを随所に備えた近代和風建築。

「地域の方がまちに魅力的なコンテンツをどんどん肉付けしていくことで、観光客の満足度が上がり、消費額が上がり、最終的にまちへ還元できるという大きな流れを生み出していければと考えています。宿泊施設に関しても、開業時は本社採用のスタッフですが、少しずつ地域雇用に切り替え、最終的に地域主体の施設へシフトすることを目指しています」。

ミシュラングリーンガイド1つ星に選ばれる重要文化財「臥龍山荘」。このエリア随一の景勝地を独り占めできるプランを用意している。

空き家が多く、あと10年でまちなみが失われるといわれた大洲市を観光のまちに磨き上げたことで、地域住民からは「まちに明かりがついて、すごくうれしい」「若い人が増えて活気がでた」「大洲が全国ネットのテレビに初めて出た」などとよろこんでもらえ、シビックプライドも醸成されているといいます。次は関係人口を増やすために、リピーターを狙う施策を進めており一過性ではなく継続した賑わいをつくることを目標にしています。また、城泊は訪日外国人を見込んだコンテンツということもあり、インバウンド需要が戻ってきた際に数ある観光地のなかから大洲市を選んでもらえるよう世界にPRすることにも注力しています。

歴史的建造物は歴史と文化の正しい理解に不可欠であり、この先の文化発展の基礎になるともいわれています。これから人口減少や高齢化社会で税収が減少することからも、地域の人とともに持続可能な方法で歴史的建造物の利活用を行うバリューマネジメントにますます期待が高まります。

※1文化庁「解体等による登録抹消」 (最終閲覧 2022/3/22)
※2 明日の日本を支える観光ビジョン
※3
文化庁「重要伝統的建造物群保存地区一覧(最終閲覧 2022/3/22)
※4 歴史的建造物の利活用は、20エリア20施設(2022/3/22現在)
※5 くわしい宿泊料金は、こちらをご確認ください。


バリューマネジメント株式会社
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